せっけん彫刻、手軽に繊細クラフト

せっけんに花や鳥などのモチーフを彫刻する「ソープカービング」が女性に人気だ。果物や野菜を装飾用に彫刻する「カービング」から生まれたタイの伝統工芸の1つで、ナイフ1本でできる手軽さと、驚くほど繊細で華やかなデザインが特徴だ。香るインテリアとして楽しめ、ちょっとした贈り物としても喜ばれそうだ。

インテリアや贈り物に

集中して一気に仕上げる人が多い(東京都千代田区の「ゴーウェルカービングスクール」)=写真 井口和歌子

カービングナイフ通販専門店を運営する、ゴーウェル(東京・千代田)が開くカービング教室。6人の参加者はピンクや黄色、オレンジなど色とりどりのせっけんを手に取り、ペン型ナイフを刺していく。タイ出身の講師、ナッタヤー・パヤラーさんは削る箇所の厚みやナイフを入れる角度、面取りの仕上がりを実演しながら教える。

2時間ほどで作品を1つ完成させる。タイ旅行で見かけて以来すっかりとりこになったというカナダ在住で一時帰国中の中川佳恵さんは3回目の参加。「上手になったら、かわいい花やお菓子をイメージする作品を友人にプレゼントしたい」と話す。

カービングの歴史は700年以上前にさかのぼる。本来は宮廷料理の装飾技術として、ホテルなどのシェフの職業技術だった。果物や野菜向けの彫刻を、保存が可能なせっけんに施したのがソープカービングだ。

2005年から講座を開くITDA日・タイ文化交流センター(東京・千代田)によると、受講者は延べ約2千人。人気の秘密は、花びらなど「きれいな形を意外と簡単に作れ、達成感が得られること」(同センター講師の井上スタテップさん)。「せっけんという身近で安価な素材と、ナイフ1本という手軽さも受けている」(ゴーウェルのカービング事業担当、梅林靖子さん)

まず、せっけんの表面に竹ぐしで下絵を描き、手のひらに載せて刃渡り5センチ弱の専用ナイフを入れていく。初心者はダリアの花など比較的平面的なデザインで、ナイフの持ち方とカットの基本を身につける。直線に慣れたら曲線、ギザギザなどより立体的なものに挑戦していく。彫り進むうちにせっけんの香りが周りに広がる。

初心者向けの専用ナイフは小型の果物ナイフに似た平らな形だが、上級者用はしなるほど薄い刃が特徴。筒状の柄を回しながら、より細かいラインを彫ることができる。せっけんは固過ぎなければ一般的な物でも彫れるが、軟らかめでデザインが映えやすいパステル色のせっけんもカービング向けに発売されている。

しばらく飾った後も通常のせっけんとして使え、削りかすもネットに入れて有効活用できるなど、エコなクラフトともいえそうだ。

日本流のデザインも

タイのカービング技術を身につけた日本人が開く教室も増えている。カービング教室ブルー(東京・足立)を主宰する森田美穂さんは、夫のタイ赴任に同行して現地で2年間学んだ後に帰国、自宅で教え始めた。

タイでは伝統的に写実的な花鳥風月を題材に彫ることが多いが、森田さんは日本人が好む「かわいい」デザインも積極的に取り入れる。人気はまるで本物のプチフール(小さなケーキ)のような作品。イチゴの香りのせっけんを使えば、イチゴのショートケーキを作っている気分にもなれる。

カービングを習う時、戸惑うのがナイフの扱いだ。果物の皮もせっけんの面取りも、刃先を体の外側に向けて削るのがタイ流。指導する際は「タイ式を無理強いはしない」(井上さん)が、「難易度の高い作品に出てくる細部の仕上げには、いろんな方向にナイフを操れた方が便利なので、マスターした方が良い」(森田さん)と助言する。

カービング講師らと交流のある在東京タイ大使館のパッタラット・ホントン公使参事官は「タイの伝統技術と日本のかわいい現代風のデザインが融合し、若い人に引き継がれればうれしい」と話す。タイでは年長者向けに贈られるプレゼントとして人気が高いが、母の日の贈り物として挑戦してはいかがだろう。

(南優子)

[日経プラスワン2015年4月25日付]