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ヘルペス、ヒトへの感染は8種類 妊婦は要注意

2015/4/2 日本経済新聞 プラスワン

人間社会にヒトの進化とともに出現していたヘルペスウイルス。時代とともに生活習慣が変わるなか、ヒトとヘルペスウイルスとの共存関係も変化し、高齢者や妊婦の感染リスクが高まる傾向にある。避けることの難しいヘルペスウイルス感染とどう付き合ったらよいのか、専門家の話を聞いた。

ヘルペスという名前を聞いて思い浮かぶのは、唇のまわりに水疱(すいほう)や潰瘍ができる口唇ヘルペス。単純ヘルペスウイルス1型が原因で起こる症状だ。自分とは無関係と思っている人も多いだろうが、日本人の70~80%がこのウイルスに感染し体内に潜ませている。

国立感染症研究所ウイルス第一部長の西條政幸さんは「ウイルスは唾液を介して感染する。多くは乳幼児期に母親などから初感染し歯肉口内炎となる。その症状が治まった後、ウイルスは三叉(さんさ)神経節という場所に住み着く」と話す。ウイルスは仕事疲れなどで免疫力が低下したときなどに再活性化し口唇ヘルペスなどの症状を引き起こすというわけだ。

■乳幼児期に潜伏

この乳幼児期に感染して体内に潜伏するという「経歴」は、ヘルペスウイルスに共通する。口唇ヘルペスと同様の症状が下半身で起こる性器ヘルペスは主に単純ヘルペスウイルス2型が原因。水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルスによる水痘(水ぼうそう)も、治った後で体内に潜み、帯状疱疹を起こすことがある。

さらにEBウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)6、7、8の8つのヘルペスウイルスが知られている。そして「誰もが、知らず知らずのうちに8つのウイルスの多くを持っている」(西條さん)。

なぜ、これほどまでにヘルペスウイルスがまん延しているのか。西條さんは「ヒトは、社会に広がるヘルペスウイルスに再感染したり再活性化したりすることを繰り返すことで、体内の免疫システムが刺激され、他の感染症に対する抵抗力を高めている可能性がある。(ヘルペスは)病気を起こす負の側面ばかりではない」と指摘する。

気を付けなければならないのは、時代の変化によりヒトとヘルペスウイルスの共存関係が変化する場合もあることだ。

例えば、子どもの頃に水痘にかかった人は免疫ができ再び発症することは少ない。この免疫力は少しずつ衰えるが、小さな子どもに接して症状の出ない程度の再感染をすることで、また高まると考えられた。

昨年10月、小児を対象に2回の水痘ワクチンが定期接種化されたことにより、今後水痘の流行は減ることが期待される。半面、感染機会もなくワクチン接種もせず、成人になって水痘にかかり重症化したり、帯状疱疹が発症しやすくなったりすることが考えられる。

長崎大学病院小児科教授の森内浩幸さんは「成人、とくに妊婦が水痘を発症すると、ときに命にかかわることもある」と警鐘を鳴らす。しかも、ワクチンで十分な免疫を得るためには2回接種が必要だということはあまり知られていない。森内さんは「定期接種化前に子ども時代をすごし水痘ワクチンを1回しか接種していない成人、とくに妊娠を望んでいる人は、ぜひワクチン接種についてかかりつけ医と相談してほしい」と話す。

妊婦は、CMVへの感染にも注意が必要だ。妊婦が感染すると、ウイルスが胎児に感染することがある。とくに免疫のない妊婦はその確率が高まる。感染しても多くは正常に発達するが、ときに脳、聴力、視力などに先天性の障害をもたらす。その頻度は、新生児千人に一人だ。

■マニュアル作成

日本ではかつて90%以上の妊婦が免疫を持っていたが、近年は70%を下回るなど胎児に感染するリスクは上昇傾向にある。そのため、厚生労働省の研究班は昨年11月に「CMV妊娠管理マニュアル」を作成し全国の産婦人科医に配布した。

マニュアルには「小さな子どもと接した後の丁寧な手洗い」「子どもと食器などを共有しない」などの注意事項も書かれているが、完全に守ることは難しい。森内さんは「妊婦、妊娠を望んでいる人は、体内にCMV抗体を持っているかどうか検査を勧めている」と話す。産婦人科医も、免疫のない人への指導を徹底し、感染防止効果を高めることができる。

身近な存在であるヘルペスウイルスによる健康上のリスクを避けるには、正しい知識を持つことが重要だ。

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■抗ウイルス薬で症状を改善

口唇ヘルペス、性器ヘルペスは再発をくり返すことが多い。しかし、最近はアシクロビル(成分名)など抗ウイルス薬が登場している。国立感染症研究所の西條さんは「性器ヘルペスウイルスも多くの人が普通に持つ。症状で生活の質(QOL)が低下しているなら、恥ずかしがらずに医師に相談してほしい」と助言する。

また、成人になって帯状疱疹を発症すると合併症、例えば、炎症がおさまった後の神経痛が残ったりすることもある。日本では水痘ワクチンを免疫力が低下する50歳以上に接種することが認められているが、これは帯状疱疹の予防にもなると考えられている。

(ライター 荒川 直樹)

[日経プラスワン2015年3月28日付]

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