何にでもスダチをかける徳島流 刺し身から味噌汁まで
どんな料理にもスダチをかける。徳島県の食の「あるある」の代表例だろう。飲食店に行けばすぐ分かる。焼き魚や天ぷらはもちろん、マグロやタイの刺し身にもスダチが付く。麺類や味噌汁にも欠かせないアイテムだ。
徳島県は全国のスダチ生産量の98%を占める。このうち3割を担う山あいの神山町は露地物の出荷の最盛期にある。町の一角にある「めし処 萬(よろず)や 山びこ」を訪ね、午後5時からの看板メニュー「鶏のからあげすだちまみれ」を注文した。
出てきたのは文字通り、唐揚げの上にスダチがこれでもかと載った一品だった。スダチをまとめて手で絞り、出来たての唐揚げを口に放り込む。中から熱い肉汁がジュワッと染み出し、爽やかな酸味と相まって箸が止まらなくなる。
地元出身の店のオーナー、谷真宏さんは「スダチは生まれたときから身近な存在。食卓にあるしょうゆと一緒かな」と笑う。併せて注文した丼物の味噌汁にも、当然のようにスダチが浮かんでいた。
JR徳島駅から約1キロ、徳島大学のキャンパスからほど近い「うどん工房 名麺(めいめん)堂」で、夏季限定の「すだちうどん」を頼んだ。太めでコシの強いうどんに冷たいだし汁。輪切りのスダチが10枚ほど載っている。
まずは透明なだし汁とうどんの喉越しを楽しむ。途中でスダチを絞るのもよし、輪切りのまま食べて苦みと酸味を味わうのもよし。客への提供はスダチの入荷しだいだが「9月中は続けたい」(代表の泉衛さん)と言う。
ラーメンも負けてはいない。渦潮で知られる鳴門市の「支那そば三八(さんぱ) 黒崎店」を訪ねた。狙いはスダチ入りの「阿波藍甕(あいがめ)ラーメン」。徳島名物の藍染めに使う甕を模した容器に、豚骨と鶏ガラがベースのラーメンが入っている。
店長の蟹江陽介さんによれば、最大の特徴は「食べた瞬間のインパクト」だ。輪切りのスダチ以外に、スープにも果汁がしっかり入っており、甘辛いイメージが強い一般的な徳島ラーメンとは一線を画す。好き嫌いはあるだろうが、一食の価値ありだ。
徳島県内の小売店を歩けば、スダチ関連の商品の多さに驚く。ポン酢や麺つゆ、焼酎にどら焼き、クッキー、さらにはハンドクリームまで。青果のスダチはハウスや露地物、冷蔵物などがほぼ年間を通じて流通している。
とはいえ一番の旬は9月前後。徳島の風味を堪能してほしい。
スダチとユズとカボスの違い、分かりますか。どれも同じかんきつ類だが、大きさでいえばスダチはピンポン球ほどで小さく、カボスはテニスボール大。その中間がユズになる。産地でいえばスダチは徳島、ユズは高知、カボスは大分の各県が有名だ。
2019年のスダチの収穫量は約4200トン。昼夜の寒暖差が大きい山間部などで栽培される。酸味が比較的穏やかで香りが豊かなスダチは、焼酎や清涼飲料などとの相性もいい。果皮を擦って薬味にするのもおすすめだ。
(徳島支局長 管野宏哉)
[日本経済新聞夕刊2021年9月16日付]
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