ぷるぷる豚足のおもろカレー 静岡・磐田で食感楽しむ
静岡県西部の磐田市には「おもろ」と呼ばれる豚足を使ったカレーがある。煮て良し、焼いて良し、揚げて良しの豚足。コラーゲンたっぷりで、煮込むとプルプルとした食感が面白い。
喫茶レストラン「グルッペちぐさ」で「おもろカレー」を注文すると、豚足がまるごと入った一皿が運ばれてきた。刺激的な香りが鼻孔をくすぐる。スパイシーな自家製ビーフカレーで豚足を煮込んで作る。豚足の脂が溶け込み、スパイシーなカレーの味は丸みを帯びる。豚足はプルプルと弾力のある食感が特徴だ。
「おもろカレー」には市内の自家菜園で採った野菜の素揚げを添える。店主の村上千柄子さんは「それが当店らしさ」と話す。野菜の素揚げはあっさりして、濃厚な味のカレーのはし休めになる。注文は事前予約が必要となる。
なぜ磐田のカレーが豚足なのか。磐田市観光協会の会長だった金原一平さん(制服製造キンパラの代表取締役相談役)の取り組みに端を発する。2006年に同協会会長に就いた金原さんは食による観光振興を訴え、国民食であるカレーとともに地元産の食材を使った食文化づくりを提案。街おこしが始まった。
サトイモの高級品種「エビイモ」やチンゲンサイなど多くの特産品が候補に挙がるなか、選ばれたのが豚足。おもろという名前の由来は沖縄古謡集などの説もあるが、かつて養豚が盛んだった磐田で、戦後の食料難の時代に駅前の屋台でよく食べられ、根付いた庶民の味だった。
街おこしのなかで数多くのおもろカレーが生まれた。
カレー店「R食堂」もその1店。「食べやすい優しい味に仕上げている」と店主の小林信二さん。「豆おもろカレー」はひよこ豆など4種の豆を使う。豚足はほろりととろける。臭みも取り食べやすい。脂を一切加えず、地元野菜をふんだんに使って作る優しい味のスープとよく合う。
米穀店「イワタライスランド」の「磐田おもろカレー」(現在テークアウトのみ)は砕いて骨を除いた豚足を、店で販売する中辛のカレーとともに煮込む。豚足の脂が溶け込み、コクに深みが増すのだろう。「濃厚な味は食べ応えたっぷり」(運営会社代表の高梨謙太郎さん)だ。
人気漫画・アニメ「ゆるキャン△」で紹介されたことなどを機に、最近では地元以外から食べに訪れる若い世代が目立つ店もある。金原さんは「コロナ禍が収束したら磐田に食べに来る人が増え、店も増える好循環に期待したい」と話している。
金原さんによると、カレーによる街おこしを始めてから分かったというが、「磐田市は実はカレーと歴史的な縁のある地域だ」と言う。日本でいち早くカレーを食べた海軍で中将だった赤松則良氏が、磐田ゆかりの人物だったからだ。
江戸幕府が倒れると、幕臣だった赤松氏はこの地に移り住み、磐田原台地に茶園を開拓した。同氏が建造した邸宅の跡も市内に残る。いつか磐田で赤松氏とカレーの縁に思いをはせながら、おもろカレーをいただいてはいかがだろうか。
(浜松支局長 新沼大)
[日本経済新聞夕刊2021年9月2日付]
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