テレワーク足にご用心 在宅で機能低下、痛みや不調
新型コロナウイルス下で外出の機会が減るなか、立つ時にふらついたり、足に痛みが出たりする人が増えている。原因は在宅勤務などによる足の機能低下で、適切に対処しなければ疲労骨折などを引き起こす恐れもある。専門家は無理のない運動や適切な靴選びを呼びかける。
「長期の在宅勤務による『テレワーク足』ですね」。7月、「足のクリニック表参道」(東京・渋谷)を訪れた40代男性はこう診断を受けた。
男性は片道40分かけて通勤していたが、新型コロナ対策で昨年4月から在宅勤務を開始。運動不足を解消しようと1日約1時間、ウオーキングやランニングをしていた。約1年後の6月、急に足に痛みが出て歩きづらくなったという。
桑原靖院長によると、足は日常の活動内容や時間によって耐えられる負荷の限界が決まっている。外出の機会が減り足の筋肉や関節を使わなくなると、「活動限界値」が低下する。
桑原院長はこのような状態を「テレワーク足」「おこもり足」と呼ぶ。
足が弱まっている状態に気付かず、運動や通勤を始めると、過度な負荷がかかり不調や痛みが出やすい。
男性の場合も在宅勤務続きで限界値が低下していくなか、毎日1時間の運動が逆効果に。運動不足を補うつもりが、知らないうちに足に無理を強いる形となり、痛みが生じたという。
クリニックでは同様の患者が昨年5月ころから増え始め、毎月50人程度来院。急に運動を始めたり、長期間の在宅勤務後に通勤を再開したりしたケースが多い。桑原院長は「通勤や日常の外出はかなりの運動。自粛による足への影響は大きい」と話す。
コロナ下で浸透した「自宅トレーニング」も不調を引き起こす思わぬ一因だ。
室内でマットを敷かずはだしで運動すると、床の衝撃が足にじかに伝わる。高い負荷がかかり、限界値を超えやすくなる。
予防や改善には運動の負荷を徐々に高めていく意識を持つことが重要だ。桑原院長は「痛んだら無理せず、日常生活や運動内容を見直してほしい」という。
靴選びもポイントとなる。足の裏はアーチのような構造で体を支える。靴の形が合っていなければ、アーチ構造が崩れて歩き方がゆがみ、痛みが生じやすい。不調がひざや腰に広がる恐れもある。
婦人靴ブランド「fitfit(フィットフィット)」では、アーチ構造にも配慮し外反母趾(ぼし)の人向けに独自設計した靴を販売している。
同社社員で足や靴の専門知識を持つ「シューフィッター」の菅野莉緒さんは「靴は多少足に合っていなくても履けるが、正しく選ばないと不調の原因になる」と注意を促す。
特に妊娠中や出産後は気を配ってほしいという。出産に際し骨盤などの骨格を緩めるホルモンが分泌されるため、足に合わない靴を履いているとアーチが崩れやすくなる。
菅野さんは「アーチを補強するインソール(足底板)や衝撃を吸収するゴム製の靴底を使ったものがおすすめ」と話す。
足の形状は人によって異なり、靴を探す際は実際に試着することが欠かせない。運動靴には足の甲がひもなどで固定され、かかと部分がぴったり合う靴が向いている。パンプスは「靴先が自身のつま先の形に合うものを選ぶと良い」という。
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コロナ下、歩行速度アップも
新型コロナウイルスは歩行にも影響を及ぼしている。外出機会の減少に伴い歩数が減った一方、歩行速度が上がり歩幅が長くなったという研究もある。足への負荷を考慮し、状態に応じた運動を心がけることが大切だ。
東京都健康長寿医療センターなどはスマートフォンの歩行速度計測アプリを利用した約3900人のデータを分析した。
この結果、2020年3~6月の1週間の平均歩数は約3400歩で、19年同期と比べ23%減少。歩行速度は毎秒0.02メートル速くなり、歩幅は0.7センチ長くなっていたという。
同センターの大渕修一研究部長は「活動量の減少を補おうとして、速度や歩幅が増した可能性がある」とみる。健康維持で負荷を上げるのは効果的としたうえで、「体の状態に応じ強度を調整したり、ストレッチしたりといった工夫が必要」と指摘する。
(武沙佑美)
[日本経済新聞夕刊2021年8月11日付]
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