引き締まった身と脂、伝統の一本釣り 和歌山の真鯛

2021/3/25
脂がのった真鯛を味わえる鯛しゃぶ(活魚料理いなさ)
脂がのった真鯛を味わえる鯛しゃぶ(活魚料理いなさ)

和歌山市北部の加太は紀伊半島と淡路島を隔てる紀淡海峡に面した景勝地だ。関西では屈指の釣り場でもあり、アジやタコなど年間約80種類の魚介類が水揚げされる。特に真鯛(まだい)は人気が高く、和歌山県が特に推奨する県産品「プレミア和歌山」にも選ばれている。

なぜ加太の真鯛はブランド力があるのか。加太漁業協同組合の由井臣組合長は「紀淡海峡の速い潮にもまれ、身がよく引き締まっているうえ、餌が豊富な海で、魚にとってユートピアだからだ」と説明する。

もう一つ重要なのが加太で代々伝わる伝統の一本釣り漁法だ。竿(さお)を使わずに釣り糸を海に垂らし、指1本で糸を操って釣り上げる。底引き網や刺し網を使うと、真鯛の身が傷ついてしまうという。

「活魚料理いなさ」は1951年創業の老舗。3代目店主の稲野雅則さんは「真鯛の品質と鮮度にこだわっているので、加太の港から直接仕入れたものしか提供しない」と話す。「真鯛荒煮」は砂糖やみりんなどの甘味料を使わない。「品質と鮮度がよいと、自然の甘味で味わうことができる」(稲野さん)からだ。

「SERENO seafood&cafe」は古民家の離れを改修した

同店で「鯛しゃぶ鍋コース」を食べてみた。真鯛の刺し身はプリプリした歯応えが快い。目玉の鯛しゃぶは分厚い切り身をさっと湯にくぐらせる。稲野さんによると「あまり長く浸すと食感が失われてしまう」。ほんのり白みを増したあたりで湯から引き上げて口に入れると、あっさりとしていながら、脂がのった上品な味が口内に広がる。雑炊は鯛のうまみが染み込んで絶品だ。

コースよりリーズナブルな価格で真鯛を食べることができるのは「SERENO(セレーノ)seafood&cafe」。父親が加太の一本釣り漁師である西川晴麗さんが2019年にオープンした。築100年の古民家の離れを改修したおしゃれな店で、若者らでにぎわっている。

鯛などをモチーフにした「めでたいでんしゃ」

加太の海の幸にこだわっており、真鯛は定食の刺し身の一つとして提供している。ただ、「加太の真鯛が手に入らないこともあり、そのときは定食に入っていない」(西川さん)ため、注意が必要だ。

「ゑびすや」もリーズナブルな価格で真鯛を味わえる。昼間は定食や丼物を用意し、夜は居酒屋になる。真鯛は定食や海鮮丼に入れている。ただ、この店も加太産の真鯛にこだわっているため、店主の幸前友利子さんは「10%ぐらいの確率で、真鯛を提供できないことがある」と語る。

<マメ知識>電車も街おこしに一役
 加太は和歌山市中心部からかなり離れており、南海電鉄が通っている。加太駅と紀ノ川駅を結ぶ路線は「加太さかな線」の愛称で親しまれている。
 同線で2016年4月から運行を開始したのが「めでたいでんしゃ」だ。2両編成で外装はピンク、水色、赤の3種類。ピンクと赤は鯛、水色は海をモチーフにしている。内装ではシートが魚などの模様になっているほか、つり革の取っ手も鯛などの形をしている。主に加太駅から紀ノ川駅を経由し、和歌山市駅までを走っている。

(和歌山支局長 細川博史)

[日本経済新聞夕刊2021年3月25日付]