のど越しの細麺ともちもち太麺 富山の氷見うどん
「日本三大うどん」の定説はないが、香川の讃岐と秋田の稲庭は有力で、残る一つには様々な名前が挙がる。富山県氷見市の「氷見うどん」もその一つだ。細麺は喉越しが良く、煮込んだ太麺はもちもちした食感が特徴だ。通信販売や持ち帰りでも楽しめる。
氷見うどんの代名詞ともいえる企業が海津屋(氷見市)だ。工場に併設する店舗で、昆布とかつお節がベースの温かいだしに入ったうどんを食べた。幅が5ミリメートル前後の細麺で、食べるとするすると入る。海津憲太郎社長は「様々な食べ方があるが、温かくして食べるとより小麦の味が引き立つ」と話す。
同社は市販用と業務用で毎日1万6000食のうどんを作る。手で生地をこね、足で踏む。細く伸ばして乾燥させ、乾麺に仕上げる。午前4時から麺作りに励む海津社長は「足踏みのとき、踏みすぎて堅くならないように気を付けている」と語る。ゆでた際、しなやかな麺に仕上げるためのコツだ。
海津屋のうどんは同社のウェブサイトを通じて購入できるほか、富山県内を中心に様々な飲食店で使用されている。さっぱりと上品な味わいが感じられるのは、細麺を冷やしで食べたとき。JR富山駅の商業施設「とやま方舟富山駅店」では、氷見うどんが単品やシロエビ天丼とのセットで味わえる。
佐藤茂男料理長によると「お酒の締めで食べる人が多い」。新型コロナウイルスの感染拡大前は1日につき30食程度は出ていたという。かつお節をベースにしたつゆにつけて食べると、表面はそうめんのようにつるつるだが、かみごたえがある。
冷やした細麺と対照的に、煮込んだ太麺を味わえるのが「糸庄(いとしょう)」(富山市)だ。県内のうどん店でも屈指の人気店で、多いときは1日1000食程度が出る。来店客の大半は「もつ煮込みうどん」を注文する。
しょうゆや唐辛子が入ったタレにつけ込んだ豚もつ、海老の天ぷらといった具材を使う。一方、麺も埋没することなく、力強い味わいがある。「コシが少し残り、もちもちした食感が味わえる。ほど良い塩加減があるから具材に負けない」と江田考輝店長は解説する。
麺と具材、スープが一体になった持ち帰り用商品もある。店内で食べる際と同じ900円で、こちらも1日につき200品近く売れることもある人気商品だ。仕事の途中に家族の夕食用として車を止めて買うサラリーマンも多い。
「氷見うどん」の起源は富山県氷見市の北にある石川県輪島市の「輪島素麺(そうめん)」とされる。室町時代から作られ、江戸時代に加賀藩が生産を振興した。細い高級品は「白毛(しらが)素麺」と呼ばれ、前田家が食用や進物用に使っていたという。氷見に伝わったのも江戸時代とみられる。同じ手延べ麺でもうどんとして定着した。一方、輪島素麺は明治維新後に粗悪品の流通などから衰退。現在は氷見うどんや、さらに南にある富山県砺波市の「大門素麺」がその伝統を引き継いでいる。
(富山支局長 国司田拓児)
[日本経済新聞夕刊2021年2月18日付]
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