多様性に欠ける永田町 女性参加で課題の見える化を
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
2020年は新たに菅義偉内閣が誕生した。前政権で目玉政策の一つであった「女性活躍」は結局、目覚ましい前進があったとはいいがたい。発足当時から掲げていた20年までに指導的立場に立つ人の3割を女性にするという目標は達成が見通せなかった。
菅内閣に代わってからも、閣僚に占める女性はたったの2人と前政権からさらに後退。「永田町の女性活躍」は、明らかに後れを取っているといわざるをえない。
日本の場合、ジェンダーギャップ指数はG7の中でも最低で、マイナス要因は第一が政治、第二が経済だ。意思決定の場が著しく男性偏重であり、ジェンダーセグリゲーション(性別分離)が強固な国であることの証左となった。
管理職も衆院議員も全体に占める女性が1割という現状は、端的に「意思決定の場にいるのは9割が男性」という状況を示す。よく「適任者を選出したら男性しかいなかった」といわれるが、とりわけ日本の政界人事は派閥間の利害のすり合わせが眼目。先例順守と順番待ちを重視すれば、おのずと「新参者」の女性には不利となろう。
政治学者の前田健太郎は『女性のいない民主主義』(岩波新書)で、「権力の三つの次元」すなわち権力には目に見えて争われる権力闘争の次元のみならず、その背後には問題を争点にすることを防ぐ第2の次元、さらには当事者すら問題の所在に気づかないよう隠蔽する第3の次元が作用しているとの説を引き、この国で女性の政治参加が進まない理由を詳解している。
政治決定の場に女性がいないということは、単に女性向けの政策が進まないだけではない。これまで問題視されてこなかった課題が争点化される機会を阻むことにもつながる。ジェンダーのみならず、マイノリティーの問題は「問題視すらされないこと」の方に多く潜んでいる。
利害すり合わせ型の日本型政治は意思決定の多様性とも極めて相性が悪く、危機対応に関しても阻害的に作用する懸念がある。女性閣僚・議員が少ないというのは、この国の政治決定過程における欠落の氷山の一角にすぎない。
昨年はコロナ禍で、ダイバーシティが浸透しない原因から結果までが高速で展開するのを目の当たりにした。今年は危機に即応した変革が進むのだろうか。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2021年1月4日付]
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