コロナ禍に残る女性活用の希望の芽 定着に向け行動を
ダイバーシティ進化論(出口治明)
新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年は女性にとって厳しい1年となった。ステイホームの結果、観光・外食産業などで働く非正規社員を中心に雇用調整が進んだからだ。しかし中長期的に見れば希望の芽は残っている。
第一にテレワークが進んだ。長時間勤務や職場の飲み会といったこれまでの労働慣行が見直され、実績が評価されるようになれば働く女性の可能性は広がる。第二に7年8カ月に及ぶ安倍政権の実績だ。政権への評価は様々だが「女性の活躍」を唱え続けたことはプラスに評価していい。
20年までに女性管理職30%という目標は達成にほど遠く、選択的夫婦別姓の議論も進まず、内閣の女性閣僚も増えなかった。それでも国の審議会などの委員は女性が4割を超えるなど改善した点も少なくない。第三に米国はバイデン政権に移る。女性を含めたマイノリティーが多く登用される見通しで、日本への影響も少なくないだろう。
この芽を大きく育てるには男女ともに働き方や生き方を考え直す必要がある。例えばテレワークで働きやすくなった人、家族と過ごす時間が増えて幸せになった人は、この生活を定着させるために行動しよう。未来は予測するものではなく、私たち一人ひとりが創り上げるものだ。
ある会社の話だ。終業ベルが鳴ったので女性社員が帰ろうと立ち上がったら、課長に「もう帰るのか」といわれ仕方なく席に戻った。後日、終業ベルが鳴ったので今度は3人が同時に帰ろうと立ち上がった。上司は何もいわなかったそうだ。1人の力は小さくても、みんなで行動すれば上司も聞いてくれるはずだ。21年をどのような年にするかは私たちの行動にかかっている。
テレワークが広がったことで女性の家事が増えたといわれる。在宅勤務中に昼食を求められたら、普段どうしているのか聞いてみよう。職場では昼食は自動的に出てこない。外食ならいつも通り外食へ、コンビニで買っているならいつも通り買いに行ってもらえばいい。女性も忙しいのだ。作ってほしいなら5割増しで料金を請求しよう。
「俺の方が稼いでいるから」という男性には、経済学の限界効用について教えてあげよう。女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる。カップルで収入額を比較することには意味がない。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2020年12月21日付]
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