決まりなし、工夫が大事 東京・調布の深大寺そば
もうすぐ大みそか。年越しにそばを味わう人も多いだろう。東京都調布市の深大寺周辺は江戸時代から「深大寺そば」で知られ、20店以上が軒を連ねる。ソバの産地や麺の打ち方などに決まりはなく、各店が思い思いに工夫を凝らす。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各店は消毒や換気も徹底している。
深大寺は食事用にソバを栽培していた。江戸時代前期に食通として知られた上野寛永寺の門主が口にし、「独特の甘みがある」と評価して有名になった。林田堯瞬法務部執事は「土地が栽培に適していたのか、他の栽培地よりソバの実が大きかった」と話す。隣接地に神代植物公園が開園し、観光客が急増した1960年代から店も増えた。
バス停「深大寺」の前にある「きよし」は2015年にそば店の店長を歴任した板長を招き、メニューも変えた。看板商品の一つが「特製鴨(かも)せいろ」だ。
北海道産のソバの実の中心を使った「一番粉」を使用し、「香り控えめで弾力性を重視した」(和地弘樹店長)。喉越しの良さを重視し、そば粉8割、小麦粉2割の「二八そば」にしている。低温調理で柔らかくした別盛りの鴨肉とともに食べるとさっぱりとした味わいだ。
深大寺本堂裏の「玉乃屋」はそば粉10割の麺を幅7ミリメートルほどに切った「太打ち田舎」が人気。しっかりした歯応えとうまみを感じられる。児玉顕社長は「地元の知人から『深大寺そばは細い麺ばかり。昔、家庭で打っていた太い麺はないのか』と言われたのがきっかけ」と話す。
そば粉は石臼で自家製粉している。同じ10割そばの細麺とは粉のひき方を変えている。8月から北海道産、12月から茨城県産のソバを使い、新そばを長く味わえる。
「湧水」は開業1994年と「この辺りでは一番新しい店」(児玉友輔社長)。群馬県産のそば粉9割の「湧水天盛り」の注文が多い。新そばの季節はやや青みがある白色で、食べると甘みも感じられる。天ぷらはえびと野菜5種類でボリュームがある。全国各地の純米酒、純米吟醸酒10種類以上を取りそろえ、そば湯を原料にした「そばようかん」などの甘味も含めメニューは100種類近い。
店舗がひしめく深大寺そばは競争が激しいため、料金も値ごろ感がある。屋外に席がある店も多い。コロナ禍が続く中、年越しそばに舌鼓を打った後、早めの初詣を済ませるために深大寺を訪れる参拝客も多くなりそうだ。
江戸時代の「深大寺そば」は当初、深大寺周辺で栽培していた農産物のソバを指していたという。江戸後期にそば人気が高まるにつれ、深大寺周辺のソバだけでは原料として賄いきれなくなり、現在の多摩地域にも栽培が拡大。多摩地域産ソバを原料にしたそばに同じ名称を使うようになった。多摩地域では明治期以降、ソバを栽培しなくなり、数店あった門前のそば店で戦後まで細々と引き継がれていた。現在は深大寺周辺のそば店が提供するそばを指すことが多くなっている。
(多摩支局長 一丸忠靖)
[日本経済新聞夕刊2020年12月24日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。