もちもち太麺に濃厚ソース 福島・なみえ焼きそば
福島県沿岸部の浪江町発祥の「なみえ焼そば」は極太の麺に濃厚なソースが絡む庶民の味。2013年にご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」で日本一に輝き、全国に知られるようになった。東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故で被災した町の復興のシンボルの一つにもなっている。
麺の太さは通常の中華麺の3倍といわれる。もちもちとした食感の麺に合わせる具材はシャキシャキのモヤシと大きめの豚バラ肉。ボリュームたっぷりの一品で、一味か七味トウガラシをかけて食べるのが地元流だ。
浪江町は原発事故で全町避難を経験した。多くの町民が逃れた先の福島県二本松市でいち早く店を再開したのが「杉乃家」。事故から4カ月後の11年7月、JR二本松駅前に移転し、なみえ焼そばを提供すると県外からも大勢の客が訪れた。
日本そばやうどん、丼物も出すが、「客の8割はなみえ焼そばを注文する」と店主の芹川輝男さんは笑う。数種類をブレンドして作るソースも売りで、「粉もん」の本場、関西の人も最初は味の違いに戸惑いつつ「これはこれでうまい」と舌鼓を打つ。
見た目は各店でほぼ変わらないが、調理法にはそれぞれの流儀がある。芹川さんは中華鍋を使用。コテを使って鉄板で炒めると麺が切れてしまうためだ。製麺所には少し長めの麺を依頼している。
浪江町の南隣の双葉町で10月に開店した「せんだん亭」は太さ6ミリメートルの麺を使う。なみえ焼そばでも太い方だという。店主の浅見公紀さんは元地元紙記者。なみえ焼そばが全国デビューする前の08年、焼そばで町おこしを模索する町商工会青年部を取材した。これが縁で震災後はPRのため全国を行脚。自らもコテを振るうようになった。
「震災や原発事故で悲しいこともあるが、浪江といえば『ああ、あの焼そばの』と言ってもらえるようになった。被災地から明るい話題を提供できた」。浅見さんはこの10年を振り返る。
復興が少しずつ進むなか、派生商品も生まれた。浪江町で8月に開業した「道の駅なみえ」内のベーカリーは「なみえ焼そばパン」を販売する。店長の丹野伶哉(れいや)さんは開業前の2~3カ月間、試作品を連日食べ続け、パンに挟む麺の太さや量、ソースの濃さなどを探った。10月には客の声を受けて一回り小さいサイズも発売。「さらにおいしいものができるはず」と研究を重ねるつもりだ。
なみえ焼そばは60年以上前に誕生したとされる。農漁業が基幹産業の町で、飲食店が「労働者向けに安くてうまいものを」と考案。腹持ちが良く、食べ応えがあるように太い麺が採用されたという。かつては町内約20店で提供していたが、東日本大震災や原子力発電所事故を受け、取扱店が減った。「B-1グランプリ」などを通じて知名度が高まるにつれ、福島県内外でなみえ焼そばをかたる偽物が横行。地域おこし団体が動き、2017年に特許庁の地域団体商標に登録された。
(福島支局長 黒滝啓介)
[日本経済新聞夕刊2020年12月17日付]
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