濃厚な味わい、口溶けなめらか 福島のキャラメル
福島県中央部の中通り地区にある大玉村。国道4号沿いにある菓子・ケーキ店「向山製作所大玉ベース」前の駐車場には他県ナンバーの車が次々と吸い込まれていく。多くの人がお目当てとするのは人気商品の生キャラメルだ。仙台から家族で福島県に遊びに来た会社員は「おいしいと子供が喜ぶのでお土産によく買う」と語る。
生キャラメルはミルクをふんだんに使った濃厚な味わいで、形を保ちながらなめらかに溶けていく食感が特徴だ。高級感があるため贈答にも用いられる。
向山製作所(大玉村)は今年で創業30年の電子部品メーカーだ。電子部品は市況の波が大きいため経営の多角化が長年の課題だった。生キャラメルの開発を始めた2008年はリーマン・ショックで電子部品の受注が大きく落ち込んだ時期と重なる。
もともと食品に関心があったという織田金也社長は東京の百貨店の地下に各地のスイーツ店が並ぶのを見て「お菓子なら地方の企業が全国で戦える」と考えた。
キャラメルを選んだのは、原料を生かせるシンプルなお菓子であることと鍋一つで手軽に作れることだ。工場の一角で女性社員にレシピづくりを任せ、1年の試行錯誤を経て生キャラメルができた。
その後、ポップコーン、焼き菓子なども加わり、店舗は県内中心に7店に増えた。今ではお菓子の売上高が電子部品を大きく上回る。
冬の厳しい東北地方の福島県は昔から濃厚でしっかりした味の食品に人気がある。
福島県郡山市が本拠の酪王(らくおう)乳業が手掛ける「酪王カフェオレ」もそんな商品の一つだ。最近は昔ながらの親しみやすい甘さが口コミで広がり、県外でも人気を集めている。サブレやアイスなど関連商品が約50種あり、その先駆けとなったのが「酪王カフェオレキャラメル」だ。庶民的な味わいが支持されている。
JR郡山駅のコンビニエンスストアのお土産コーナーや県内の高速道路のサービスエリアでおなじみの商品だ。
いわきチョコレート(福島県いわき市)の「エゴマの米飴キャラメル」はシソ科の搾油用種子であるエゴマを使った和菓子のような味わいを特長とする。
県内産食材を使った食品コンテストで19年度の最高賞を取った。エゴマ産地の福島県田村市にある磐越自動車道の阿武隈高原サービスエリアなどで扱っており、新しいお土産の定番を目指す。
地元の素材を生かしたキャラメルは福島の新しい味になりつつある。
福島県はキャラメルのほか日本三大まんじゅうの一つ「薄皮饅頭」(柏屋)、洋菓子「ままどおる」(三万石)、あん入りゆべし「家伝ゆべし」(かんの屋)など銘菓が目白押しだ。白河の関があった福島県は東北地方の玄関口にあたる交通の要衝だった。製造品出荷額は東北最大で経済活動に伴う人の往来も活発だ。その分、お土産にするお菓子の需要は大きい。また日本酒鑑評会で金賞を取る酒蔵が多いのは水の良さの表れともいわれ、良質なコメや牛乳とともに福島県のお菓子作りを支えている。
(郡山支局長 村田和彦)
[日本経済新聞夕刊2020年4月9日付]
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