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阿部さんはエアコンを薦める際、さりげなく家族構成や部屋の広さを聞き出す

阿部さんはエアコンを薦める際、さりげなく家族構成や部屋の広さを聞き出す

「必要な時に相談にのれるよう、さりげなく顧客のそばにいる」――。上新電機のジョーシン豊中インター店(大阪府豊中市)の阿部宗昭さんの接客は、色鮮やかなチラシに威勢のいい掛け声といった家電量販のイメージと違い、控えめだ。強引な営業トークは決してせず、かつ顧客が必要なタイミングで相談できるよう視界の端にたたずむ。さりげない気遣いが評判を呼び、ウェブ上で実施する顧客満足度アンケートでは常に首位だ。

来店客にはすぐに声を掛けない。視界の隅で棚の整理や品だしをして待ち、同時に目線を合わせ、笑顔であいさつする。困ったらいつでも声を掛けてくださいね、というメッセージになるという。

最も気を使うのは購入品が決まった後の対応だという。保証の説明や会員カードの案内、配送手続きまでやることは盛りだくさんだが「買うものが決まれば『早く帰りたい』と思うお客様が多い」(阿部さん)。このため「この後お時間ありますか」と一言尋ね、残り時間からやるべきことを逆算して動く。言葉だけでなく、相手の表情も気をつけて見る。微妙な変化に本音が出るからだ。

店外でもできる会員登録などは「ご自宅でお願いします」と案内し、時間を短縮する。単に急ぐだけでなく、待ち時間を感じさせないよう工夫を凝らす。例えば、レジを打つ間に配送先伝票を書いてもらえば、顧客は手持ち無沙汰にならない。

阿部さんは「実は話すのは得意でなくて……」と打ち明ける。接客歴が20年を超えるベテランだ。先輩の手本を見ながら試行錯誤を重ね、自分なりの接客術を探ってきた。たどり着いたのが、相手のペースに徹底的に合わせる現在のスタイルだ。

かつて家電量販では顧客にため口で話すような販売員も少なくなかったという。百貨店と違う「親しみやすさ」を体現する方法だったというが、話し下手な阿部さんにはハードルが高く、控えめながら丁寧な接客術に活路を見いだしていった。「ため口が嫌なお客様は多い。誰にでも受け入れられる接客を目指した」

控えめな阿部さんだが、唯一自分をアピールするのが帰り際だ。レシートに必ず名刺を添えて渡す。「商談が成立しなかった時でも再来店につながりやすい」ためだ。

家電市場は成熟し、今後大きな成長が見込めない。調査会社のGfKジャパン(東京・中野)によると、2019年に国内家電小売りの市場規模は7兆800億円と前年比で微増にとどまった。EC(電子商取引)の普及で、量販店同士の競争も激しさを増す。

実際、店舗で商品を見た後、ECに流れる顧客も少なくないという。阿部さんは店舗で商品を買ってくれるかどうかは接客次第だと強調する。「来店してくださるのは、販売員の手伝いを求めているから」とみて、さりげない気配りで、後悔のない買い物をサポートする。

(渡辺夏奈)

[日経MJ2020年3月30日付]

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