緑内障、70歳以上の1割 自覚しにくく自動車事故の危険
高齢ドライバーは注意すべきなのにあまり知られていない目の病気が、視野障害だ。高齢者に多い緑内障などが原因で、視野の欠如や狭さくで信号を見落としたり飛び出しに気づくのが遅れたりする。視力は低下しないケースもあり、気付かずに運転を続けて事故を起こす危険がある。専門家は「運転する高齢者は一度、眼科で受診してみてほしい」と呼びかけている。
「年をとると視野が狭くなる眼疾患が増える」と説明するのは西葛西・井上眼科病院(東京)の國松志保副院長。緑内障や網膜色素変性症では外側から視野が狭まり、脳梗塞では視野の半分が欠けることもあるなど疾患で症状は異なるという。
特に患者数が多いのが緑内障。日本緑内障学会の調査によると、高齢になるほど有病率は高く、70歳以上では1割を超える。視野の見えない部分は一部分から始まり、徐々に広がる。視野の中心部分の視力は保たれる場合が多く、自覚しにくい。
國松副院長によると、脳が映像を補正し、例えば、青空を背景にした信号機があっても、視野の欠けた部分に信号機が入ると、青空しか見えない状態になるためだ。「『何か変だな』と思いながら運転を続けてしまうことがほとんど」(國松副院長)という。
國松副院長が緑内障の外来患者約150人に行ったアンケートによると、緑内障に気付いたきっかけは「人間ドック」が75%、「眼鏡やコンタクトレンズの検査で眼科を受診した際」が20%。「自覚症状」は5%と極めて少なかった。
警察庁によると、2018年に高齢者講習を受講した人は全国で約269万人に上る。同庁は70歳以上が免許更新の際に受講する義務がある高齢者講習で、09年から視野検査を新たに加えた。検査結果が悪かったとしても免許取り消しにはならないが、加齢に伴う視野の変化などについてドライバーに自覚を促したり、運転者の状況に応じた指導をしたりすることで、高齢ドライバーが安全運転できるように支援する。
ただ現在の検査は、左右に動く白い点が見える範囲の角度を測る「水平視野」測定のみ。水平線上で視野が欠けている部分の測定はするが、上下の視野の測定は検査項目にはない。
緑内障の検査は一般的な眼科でも受けることができる。保険が適用され料金も数百~数千円ほどだ。
國松副院長は「病院にかかったら運転できなくなるのではと考えて受診しない人も多い。だが即座に運転をやめるよう助言するほど症状が進行しているケースはごくまれだ」という。
受診して視野のどの部分が欠けていて、運転時にどんな注意が必要かを知ることが、事故を未然に防ぐことにつながる。國松副院長は「日常的に運転する人は一度眼科を受診してほしい」と力を込める。
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中高年運転手、進まぬ検査
製薬大手のファイザーが1月に実施した調査で、緑内障の早期発見につながる視野検査を40歳以上のドライバーの8割が受けていない実態が明らかになった。
調査対象は、週3日以上車を運転し、緑内障と診断されたことのない全国の40~69歳の男女約1万人。視野検査を「受けたことがない」との回答は80.2%にのぼった。
調査結果では症状についての誤解も多くみられた。緑内障の症状を尋ねる質問で「緑内障になると視野が欠けたところが黒く見える」「視力が良ければ緑内障である可能性はない」など事実と異なる誤った選択肢を選んだ人が計38.5%を占めた。緑内障が目の病気であることは約9割が認識しつつも、具体的な症状を把握していない人が多い実情が浮かび上がった。
緑内障と診断されても対策を取れば運転を続けられるケースが多い。しかし調査では「緑内障と診断されたら運転できなくなる(禁止される)」と誤解している人が52.7%と過半数だった。健康診断や眼科での定期検診が緑内障の早期発見につながることも「知らなかった」との回答が41.9%あった。
(三浦日向)
[日本経済新聞夕刊2020年3月18日付]
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