近視は病気ではない、と考えていないだろうか。しかし、近視は眼球が前後に伸びて網膜にピントが合わなくなる進行性の「病気」だ。成長期だけでなく、大人になって近視になる場合もあり、悪化すると将来の視力障害につながることもある。子どもの場合は遊び場が減って屋外活動量が低下したこと、大人でもスマートフォンの急速な普及による目の負担が増えたことなど、環境要因が近視を加速するという考えが主流となっている。近視の進行を抑制する最新治療や日常生活での注意点を紹介する。
■増える近視、なのに危機感が薄い日本
今年9月、日本で開催された第17回国際近視学会で注目を集めたのが、「近視進行抑制の最新の国家的戦略を知ろう!」というシンポジウム。台湾では、屋外で日に当たる時間を増やすことで近視の進行が抑えられるという科学的データを受けてすべての小学校で週150分の体育の屋外授業を義務づける法改正が行われた。シンガポールはゲームの使用時間を減らすなどの「近視予防プログラム」を国を挙げて実践して近視抑制に成功した。中国はスマホやパソコンの使用時間を短縮することで「子どもの近視を毎年0.5%減らす」という。シンポで報告された内容だ。
東京医科歯科大学医歯学総合研究科眼科学教室の大野京子教授は日本近視学会理事長で、今回の国際近視学会の会長を務めた。大野教授は「日本以外のアジアやその他の国や地域では、成人後に強度の近視になってからでは遅い、という認識のもと、小児期から細かなガイドラインを決め、取り組んでいる。一方で、日本の小児期における近視抑制に対する国策の遅れが目立った」と話す。
近視はパンデミック(大流行)といわれるほど世界で急増しており、特に東アジアで顕著だ。中国では思春期および若年成人の近視率が9割を超え、韓国や台湾でも20歳時で8割が近視、とされている[注1]。
文部科学省の学校保健統計(令和元年度、速報値)によると、日本でも裸眼の視力が1.0に満たない子どもの割合は年々増加し、令和元年度で高校生の7割近くに達している。