酸味・食感、富んでます 色彩も目を引く富山の鱒ずし

2019/12/12
笹の葉の緑と鱒のピンクのコントラストが目を引く(青山総本舗の「鱒乃寿し」)
笹の葉の緑と鱒のピンクのコントラストが目を引く(青山総本舗の「鱒乃寿し」)

富山県の名産品で駅弁としても有名な鱒(ます)ずし。ピンク色の鱒の切り身をのせた酢飯を笹(ささ)でくるんだ単純な商品に見えるが、県内に50近くあるとされる各店の味はバラエティーに富んでいる。酢の強さや鱒の食感が違いを生む。地元では家庭ごとにひいきの店があり、代々受け継がれているという。

鱒ずしで全国に最も知られているのは源(富山市)の「ますのすし」だろう。宿泊施設を経営していた同社は1912年、富山駅の駅弁として郷土料理だった鱒ずしを売り出した。現在は機械による量産体制を敷き、首都圏や関西の百貨店でも販売している。

様々な鱒ずしが並び、客の好みに合わせて店員が商品を薦める(富乃恵)

富山駅には源の店舗とは別に、併設する商業施設内に10社近くの商品が並ぶ富乃恵(とみのめぐみ)がある。「どれが一番おいしい?」。旅行客にこう聞かれると、池原政美店長は「酢の味は」「ご飯の硬さは」と好みを尋ねる。池原さんが手にしているのは各商品の「酢飯の酸味」「鱒のレア(生)度」「酢飯の押し具合」をレーダーチャートにした紙。それぞれの客の好みを聞き、商品を薦める。

敷き詰めた鱒の上に酢飯をのせる(青山総本舗の製造風景)

まずはすしらしく酢の味が利いた商品を味わおう。そう考えて酸味の数値が高い青山総本舗を訪ねた。笹の葉を敷いた木製の器に鱒、ご飯の順に敷き詰めてふたをする。上から50キロの石を15分程度置いて押すとできあがりだ。

京都産の酢を混ぜたご飯は酸味が強いが、炊飯時に混ぜる昆布だしのせいかまろやかに感じる。「味付けはバランス重視」という青山益広社長は「魚のアミノ酸がご飯に混じることで出るうまみを味わってほしい」と話す。

富乃恵で「お酒のおつまみ向き」と言われたのが高田屋の商品だ。食べると鱒に塩味が利いていて、ご飯は酢の味があまり強くない。同店は明治初期の創業で150年近い歴史を持つ。4代目の高田勤朗社長は「以前に比べると塩味も酢の味も弱くした」と話すが、ほどよい塩味の鱒は日本酒が進む。高田さんは「ビールにも合う。特に夏場はお薦めです」と教えてくれた。

富乃恵には置いていないが、わずか創業10年で地元の注目株となっているのがまつ川の商品だ。「魚本来の味を楽しんでほしい」という米本治樹社長が重視するのは鱒の生っぽさ。ふたをした後に押す石を他店に比べて軽くし、刺身のような感覚で鱒が味わえる。「製造後24時間たった商品が一番おいしい」といい、客が取りに来る時間から逆算して鱒ずしを作る。

グループで富山を旅行する際、複数の商品を買って食べ比べると、帰りの車中での会話も弾むはずだ。

<マメ知識>源流は鮎ずし、吉宗に献上
鱒ずしのルーツは1700年代に富山藩士の吉村新八が、鮎(あゆ)の押しずしを将軍徳川吉宗に献上し、好評を得たことにあるとされる。その後、神通川で取れるサクラマスを使った鱒ずしが主流になった。現在は神通川ではほとんど取れなくなり、大半の店舗は北欧など海外産を使っている。
富山市の市街地にほど近い鱒ずし店の集積地には、川魚の資源を管理する「富山漁業協同組合」の事務所もある。漁港以外に立地するのが珍しい漁協の存在は、川で取れたマスと鱒ずしとの深い関係を物語る。

(富山支局長 国司田拓児)

[日本経済新聞夕刊2019年12月12日付]