眠れない「むずむず脚症候群」 症状を和らげるには
睡眠障害の要因として最近注目されているのが「むずむず脚症候群」だ。我慢できないかゆみや足が勝手に動くなどの異常感覚が起こる。病気の特性を知り、適切な治療で日常生活に支障がでないようにしたい。
夜、眠りにつこうとしたとき、脚がむずむずしたり、ほてったり、鈍い痛みが走るなど不快な感じがして眠れない――。布団のなかで脚を動かしたり、起き上がって少し歩いたりすると症状が和らぐこともある。こうした異常感覚の原因は、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)という病気かもしれない。
推定患者数は200万~400万人で、治療が必要なのは約70万人と決して珍しい病気ではない。病名に脚がついているが、異常感覚は顔や口、手、腹部などに表れることもあるという。
症状が進むと異常感覚は昼間にも出る。睡眠総合ケアクリニック代々木(東京・渋谷)の井上雄一理事長によると「ある営業担当者は、外回りから戻りオフィスで長時間座っていると、脚を動かさずにいられなくなり同僚から落ち着きがないといわれた」というケースもある。
女性の発症率は男性の1.5倍で、年齢が進むほど発症率が高まる。子供のうちに発症すると座ったまま授業が受けられず注意欠陥多動性障害(ADHD)と誤診される例も少なくない。むずむず脚症候群が想定される場合、睡眠障害を診る精神科や神経内科などを受診するといい。
発症メカニズムについてはよく分かっていないが、脳内で体の動きに関する信号を伝達する物質のドーパミンが不足して起こるという説が有力だ。慶応義塾大学病院(東京・新宿)で月1回「むずむず脚外来」を担当する堀口淳客員教授は「脳内でドーパミンと同じ働きをするドーパミン作動薬を投与すると症状が改善することからも仮説は裏付けられる」と語る。
ドーパミン作動薬による治療は患者には朗報だが同時に課題もある。井上理事長は「数カ月使用していると、服用し始めたころの効果が続かず、症状が出る時間が早まったり、部位が広がったりするなど重症化することがある」と解説。重症化を避けるには、安易に投与量を増やさず、症状には波があるので様子を見ながら休薬するなど薬物療法の「さじ加減」が必要だ。
ドーパミン作動薬以外の治療をうまく組み合わせることも大切だ。堀口客員教授によると、鉄分の不足は体内でドーパミンが作られるのを妨げ症状を悪化させる。医薬品などで鉄分を補給したり、異常感覚を鎮める働きのある漢方薬「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」を用いたりすることも有効であると臨床研究で明らかになっている。
症状を軽減するには生活改善も重要。井上理事長は「カフェイン、アルコール、喫煙を控えるのが絶対条件」という。カフェインは症状を悪化させるだけでなく、鉄分の吸収を妨げるので要注意だ。
このほか規則的な就寝、起床を心がけ、寝る前に短時間歩いたり脚をマッサージしたりすることが症状改善に役立つこともある。また、風呂やシャワーなどによる温度変化の刺激は症状を改善することもある。温かい方がいいのか、冷たい方がいいのかは個人差があるので、自分で最適の方法を見つけるといい。
病気への知識の普及が遅れていたため、症状に悩みながらも治療を受けていない患者も多い。症状によって睡眠不足になり、仕事の集中力がそがれるなど日常生活に支障をきたしたら、早めに医師に相談したい。堀口客員教授は「眠れないと訴えるだけではなく、体の異常感覚についてきちんと説明することが、適切な治療を受けることにつながる」と助言する。
(ライター 荒川直樹)
[NIKKEIプラス1 2019年11月23日付]
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