つらい膝痛 動かして軽減 体操や水中エクササイズ有効
装具も活用、残った軟骨維持
多くの高齢者を悩ませる疾患が膝の痛みだ。日本では約2800万人が何らかの膝痛を抱えるとされる。痛いからといって体を動かさないのは逆効果。むしろ適度な運動をすることで膝回りの筋肉を鍛えれば、膝への負担を減らして痛みを和らげることができる。
東京都板橋区の女性(73)は坂道で転倒して以来、膝が伸びなくなり膝痛に悩まされるようになった。トイレに行くのもままならないほど症状が悪化。医療機関から手術を勧められたが抵抗があり途方に暮れた。
そんな時、別の医療機関で勧められたのが体操による運動療法だ。以降、毎日体操をするようになったら、徐々に痛みが治まった。「体操のおかげで好きな旅行に出かけることができる」と女性は喜ぶ。
高齢者の膝痛の大半は変形性膝関節症が原因。緩衝材役の軟骨がすり減った結果、骨同士が擦れて炎症を起こし、神経を圧迫して痛みが生じる。加齢で筋力が衰えると膝への負担が増し、軟骨をすり減らす要因になる。特に閉経後、ホルモンが減る女性に多く、患者の7割以上を占める。
一般的な治療法は内服薬の服用やヒアルロン酸の関節注射。だが、単なる痛み止めにすぎず、一時的に痛みは和らぐが根治にはならない。効果的なのが冒頭の女性のような体操やストレッチによる運動療法だ。
いち早くこの療法を唱えた江東病院(東京・江東)の黒沢尚理事長は、3種類の体操を推奨する。
1つが脚上げ体操。あお向けに寝て片膝を立て、もう片方の脚を床から10センチほど上げ5秒間静止する。終わったらゆっくり下ろす。次が横上げ体操。横向きに寝て両脚の膝を伸ばしたままにして、上側の脚を10センチほど上げ、5秒静止したらゆっくり下ろす。
最後がボール体操。お尻とかかとを床につけ膝を立てて両脚を開き、サッカーボールなどの硬いボールを太ももの間に挟む。左右の太ももに力を入れてボールを潰すように押し、5秒たったら力を抜いて休む。3つの体操はいずれも交互に20回繰り返す。朝晩各1セットずつ行えば、痛みが和らぐ効果が見込まれる。
重要なのは膝痛があっても意欲的に体を動かそうと努めること。「軟骨がすり減っている状態に変わりはないので、体操をやめると痛みがぶり返す恐れがある。根気強くケアを続けることが大切」(黒沢さん)。その際、膝に負担をかけず効果的な運動ができる水中エクササイズもお薦めだ。
「股関節を大きく回しましょう」。指導員の声に合わせプールに入った高齢者が脚を動かす。スポーツクラブのルネサンス蕨24(埼玉県蕨市)の「膝・腰機能改善水中運動スクール」の様子だ。
今年初めに膝痛を発症した佐藤寛太郎さん(85)は医師に勧められ、今春からスクールに通い、今は痛みがなくなったという。水中だと浮力で体への荷重が10分の1程度になり膝への負担が減り、逆に水の抵抗で運動効果は高まる。
ただ、運動療法で効果が期待できるのは軟骨が残っている人の場合だ。軟骨を極力残すため、装具を活用する方法もある。
O脚の人は内側の軟骨が減りやすく、X脚の人は外側の軟骨が減りやすい。それを矯正する装具を身に着けるとバランス良く歩けるようになり、軟骨の減少を抑えることができる。サポーターは、身体的な効果は大きくないものの膝回りに装着することで安心感が生まれ、積極的に体を動かそうという動機づけになる。
軟骨がほぼなくなった末期の人には、人工関節をはめ込む手術も選択肢の一つ。深く膝を曲げる正座などはできないが、痛みがなくなるので手術を選ぶ人は増えている。とはいえ末期になる前に体操などで膝の筋肉を鍛え、できるだけ残った軟骨を維持することが基本だろう。
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積極的に外出しよう
膝痛を抱える人は痛みから体を安静にしたり、外出を控えたりしがち。しかし、江東病院の黒沢さんは「体を動かさずにいると、やがて体の機能が衰えて自立度が低下し、最悪、要介護状態になる恐れもある。家の外に積極的に出なくなると、他人と会話する機会が減り社会性が失われ、認知症を誘発する可能性もある」と指摘する。
これを裏付けるデータもある。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年度)によると、介護が必要となった主原因は膝痛や腰痛などの「関節疾患」が要支援者でトップだった。要介護者でも認知症や脳血管疾患などに次いで5位に入った。
体の衰えが進み、要支援から要介護へと症状が重くなる高齢者は多い。膝痛などの関節疾患は要介護状態を招く引き金になりかねない。日ごろから適度な運動や外出を心がけたい。
(高橋敬治)
[日本経済新聞夕刊2019年11月6日付]
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