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iモード生んだ「複雑系」 米留学で運命の一冊に遭遇 ドワンゴ社長 夏野剛氏

2019/9/21付 日本経済新聞 朝刊

夏野氏と座右の書・愛読書
1993年に経営学修士号(MBA)を取得するため米ペンシルベニア大学ウォートン校に留学。人生を変える一冊と巡り合った。
なつの・たけし 1965年生まれ。東京都出身。早大政経卒。97年にNTTドコモに入社し、「iモード」を開発した。2019年2月から現職。

80年代に米国で「複雑系」という概念が生まれました。「すべての事象はお互いに影響し合ってひとつの結果をつくる」という考え方です。社会科学や自然科学を学ぶといつも「諸条件が一定だとすると」というただし書きが付きましたが、現実は単純ではありません。こうした違和感があり、複雑系が強く心に刺さったのです。

留学中にある授業の参考図書として推薦を受けた『心の社会』は複雑系を解説した初期の書籍でした。この本との出合いがキャリアの礎であり、複雑系に関する本を相次いで読む契機にもなりました。著者のマーヴィン・ミンスキーさんは人工知能(AI)の研究者で、後に札幌で対談する機会を得て感動したのを覚えています。

帰国後に手に取ったのが塩沢由典さんの『複雑系経済学入門』です。現代の経済の仕組みを理解する手助けとなりました。このころ、アジア通貨危機など外部環境の変化により勤務先のベンチャー企業は苦戦していました。自分では正しいと思っていてもうまくいかない経験と、様々な事象が絡み合うという複雑系の考え方を重ね合わせたのかもしれません。

数年後にNTTドコモで「iモード」を開発し、このときにも複雑系の考え方が基盤となりました。iモードは携帯電話にインターネットを取り込んだものです。オープンで多くのプレーヤーを巻き込むネットは複雑系そのもの。iモードでは多くの公式コンテンツに加えて、多数の勝手サイトが事業のけん引役となりました。

テクノロジーで世の中を変えたいと考えるようになったのも読書の影響が大きい。

父親は損害保険会社に勤めるサラリーマンでした。転勤が多かったものの普通の家庭だったと思います。ただ、どのような考えだったか分かりませんが、本は無尽蔵に買ってもらえました。色々と読むなかでのめり込んでいったのがSF。特にアーサー・C・クラークが気に入り、全作を読みました。

時空を超えてあらゆる光景を見ることが可能になり秘密がなくなった世界を描いた『過ぎ去りし日々の光』は特に印象に残っている一冊です。クラーク作品に共通するのは、リアルで物理法則にのっとった設定や描写です。人間や社会が新しいテクノロジーにどう適応するかが一貫したテーマで、もっとも影響を受けた作家といえます。

『攻殻機動隊』にも衝撃を受けました。インターネットが今後の重要なテクノロジーで、それを基盤とした社会になると感じました。今でも(人間の頭脳がネットにつながる)電脳化など攻殻機動隊の世界観が実現すると信じています。日本はネットでもっと頑張れると思えるのも、こうした作品をいち早く生む土壌があるからです。

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