レジェンド囲碁棋士が日中韓駆ける 国際シニア戦白熱
低年齢化が進む囲碁界で、シニア棋士の活躍の場が広がっている。韓国の新棋戦にはかつて世界をリードした有力棋士が集結。日中韓を駆けるレジェンドの熱き戦いを追った。
韓国南西部に位置する全羅南道新安郡は、1004の島から成る風光明媚(めいび)なリゾート地だ。6月前半、地元自治体の後援で実現した「新安国際シニア囲碁大会」に出場するため、世界の著名な50歳以上のシニア棋士16人が一堂に会した。
日本からは武宮正樹九段、林海峰名誉天元、趙治勲名誉名人、小林光一名誉棋聖といった面々。中国の兪斌(ユ・ヒン)九段や地元・韓国の劉昌赫(ユ・チャンヒョク)九段の顔もある。世界選手権・富士通杯で1988年、89年と最初の2回を制した武宮九段をはじめ、世界戦で輝かしい成績を残した棋士ばかりだ。
団体戦と個人戦で技を競った。団体戦は1チーム3人で、4カ国・地域の総当たり。「この世代は日本の層が厚い」という前評判通り、武宮九段、小林名誉棋聖に依田紀基九段を加えた日本チームは1、2回戦で台湾、韓国チームに勝ち越し。しかし、3回戦の中国戦は3人とも敗れ、勝ち星の差などで4チーム中3位に沈んだ。
悔しがっていたのが、大会の紅一点、●(くさかんむりに内)廼偉(ルイ・ナイウェイ)九段と対した小林名誉棋聖。初対決は小林が大石を取られて逆転負け。「中国国内リーグで厳しい日程をこなしている●(くさかんむりに内)さんに力を出されてしまった」と残念そうだった。
アジア各国で大会
優勝は梁宰豪(ヤン・ジェホ)九段や劉九段が活躍した地元韓国で、2位が中国。林名誉天元と王立誠九段、王銘琬九段という日本棋院勢で構成する台湾チームも4位と振るわなかったが、その中でも王立誠九段が個人戦で大活躍した。
1回戦で世界戦優勝6回を誇る優勝候補の一角、劉九段に快勝して勢いに乗り、決勝でも中国のエース、兪九段を圧倒して優勝。「秒読みが1手30秒と短く、集中力を持続できた。想定外の優勝で、とてもうれしい」と喜んでいた。ただ、個人戦のみに参加し、優勝候補でもあった韓国出身の趙名誉名人は1回戦で武宮九段に敗れ、肩を落としていた。
もっとも、勝ち負けで、ぎすぎすしないのが百戦錬磨の棋士。複数言語を話せる棋士を交え、様々な言葉でやり取りする局後の検討風景もあちこちで見られた。
大会期間中、日曜日になると会場のホテルでは地元住民のための囲碁大会やお祭りが開かれ、にぎわっていた。主催者の韓国棋院によれば、この大会は少なくとも3年は続ける計画。前夜祭で挨拶に立った国会議員でもある曺薫鉉(チョ・フンヒョン)九段が「次回は選手として参加したい」と宣言。韓国囲碁界をけん引してきた人物だけに、来年はさらに盛り上がりそうだ。
国際的なシニア大会としては、2018年7月に中国・紹興市で「国際囲碁大師戦」が開催され、日中韓のレジェンド8人が参加して小林名誉棋聖が優勝した。また、「百霊杯」という世界戦の中の「元老戦」で依田九段が優勝したこともある。
中国では、ペア碁など様々な形で著名なシニア棋士を招いての囲碁イベントが各地で開かれ、日本の棋士では武宮九段や小林名誉棋聖らの人気が高い。小林名誉棋聖は「この4年で11回は中国に行った」という。
韓国には「大舟杯男女プロシニア最強戦」という国内戦があり、昨年の第5回大会には趙名誉名人がシード参加して優勝。このほかシニアのリーグ戦もある。
日本では「囲碁マスターズカップ」がある。フマキラーの協賛により11年に始まり、今年で9回目。趙名誉名人が4回目の優勝まで、あと1勝と迫っている。
同年代の共感呼ぶ
最近の囲碁の世界戦は、中国中心にAIを活用できる若手棋士が活躍し、日本でも10歳の仲邑菫初段ら若手に注目が集まる。
ただ、スポーツと違い、シニアでもハイレベルな戦いができるのが囲碁の良さ。小林名誉棋聖は「我々シニアの頑張る姿が同年代のファンの共感を呼ぶのではないか」と話している。
(客員編集委員 木村亮)
[日本経済新聞夕刊2019年7月8日付]
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