生物科学のゼネラリスト育成 答えのない問いを考察
日本大学くらしの生物学科
遺伝子を組み換えるゲノム編集技術など、生物科学を巡る領域が広がり、新たな課題が増えている。2015年4月に開設した日本大学生物資源科学部の「くらしの生物学科」は、生物科学について従来の枠組みにとらわれない視点で問題を考察できる人材の育成を目指す。ボランティアや実習など現場の実践活動も重視し、幅広い視野と判断力を培う。
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神奈川県藤沢市にキャンパスを構えるこの学科は、生物資源科学部で12番目に設置された最新学科だ。「生産・利用」「生命科学」「環境科学」の3つの分野を1~3年生の間で全員が学ぶ。専門分野の研究室に入るのは4年生からだ。学科主任の光沢浩教授は「幅広い知識と判断力をもったゼネラリストの養成を専門に掲げた学科だ」と強調する。
これまで食料生産について学ぶ「生命農学科」など特定分野に特化した学科が多かった同学部の中では異色の学科。1学年に約80人が在籍する。
同学科でとりわけ重視するのが、複数の分野の切り口からの考察だ。例えば、必修の「生き物倫理」では、ペットとヒトとの関わりについて議論する。高齢の飼い主が亡くなりペットの飼い主がいなくなる問題や動物実験の是非など、身近な問題を取り上げて考えさせる。
「高齢者のペット飼育には制限を設けるべきか」
「カエルばかり実験に使うのはどうして。哺乳類と命の重さが違うのか」
あえて答えは示さず、少人数のグループワークを中心に学生に考えさせる。生物科学が向き合っている答えのない問いに対し、判断力を培うのが狙いだ。
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現場実習にも力を入れる。地元の観光地である江の島の生物資源を調査したり、学内の農場で野菜を学生が植え付けから収穫まで行ったりする。
ボランティア活動も必修科目だ。神奈川県内の動物園や農業法人のほか沖縄県の海ブドウ生産法人など、全国約10カ所から学生が活動先を選ぶ。現場でのコミュニケーションやマネジメント能力を高め、社会で活躍できる人材に育てる。
4年生から所属する研究室は「バイオテクノロジー」「食と健康」「園芸」など、領域別に全部で6つある。
田嶋恵梨子さん(21)は緑地利用や町づくりを扱う「住まいと環境研究室」で、地域に眠る生物資源を使った町おこしを専門とする。千葉県の特産品「江戸前千葉海苔(のり)」を中心に研究を進めている。指導教官とともに現場へ毎月訪れ、自治体や売店、ノリを生産する漁師など関係者を取材。自身で販売なども手伝うなかで、現場の課題を肌身で学ぶ。
田嶋さんは「立場によって考え方や姿勢が違う。各方面からの協力を得なければ、地域に眠る特産品の普及は進みにくい」との感触をつかんだ。経験をいかし、将来は地域を活性化させる仕事につきたいという。
同学科は19年春、初めての卒業生が出た。就職先はサービス業から食品メーカー、官公庁などと幅広い。学科で学べる内容の広さに応じ、進路も様々となった。光沢教授は「ゲノム編集など生物科学は高度に発達し、研究者でも専門が違えば分からないことも多くなってきた。生物科学の新領域に対して自分で判断し、新たな解決策や道筋を示せる人材を育てたい」と力を込める。
(高野馨太)
[日本経済新聞朝刊2019年6月12日付]
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