検診は旅行気分で ホテル・観光地のプラン広がる
がん検診や脳血管検診を受ける際の気の重さを、旅行気分でやわらげる「リゾート検診プラン」が広がっている。観光も兼ねることで受診を動機付け、早期発見など健康維持に役立てる。入会金数百万円の会員組織から、検査だけ数万円で受けられる廉価コースまで選択肢は多い。
東京から約250キロメートルの浜名湖リゾート(浜松市)。舘山寺(かんざんじ)温泉や遊園地が集積した一角に建つホテルウェルシーズン浜名湖は、平日に1泊2日で陽電子放射断層撮影装置(PET)の検診を受けられる「PETがん検診セットバイキングご宿泊プラン」を設定している。
ホテルを運営する遠鉄観光開発(浜松市)の日置茂雄マーケット戦略課長は「浜松市や浜松PET診断センターから声がかかり2012年にスタートさせた」と話す。6月末までの価格は14万3900円から。浜松PET診断センターでの検診料とホテル宿泊料、バイキング代金が含まれ、宿泊当日か翌日にセンターに移動して約4時間の検診と結果説明を受ける。
プラン利用者はのべ91人だが、利用者が途切れず、リピーターが多いことが特徴。6回プランを使った京都府在住の客は「検診と併せ旅行気分で温泉に入れるのが良い。近隣でもPETは受けられるが、ホテルやスタッフの接客姿勢にも魅力を感じる」と話す。定期的な検診とリゾート宿泊を一体化させて抵抗感をなくしている。
浜松PET診断センターは浜松ホトニクス系列の一般財団法人。岡田裕之常務理事はPETとコンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)、超音波を併用して精度を上げていると話す。蓄積データの解析で、PET検診の有無でがんの医療費がどの程度下がるかの研究でも成果を上げている。
富裕層向けの会員組織もある。富士山間近の山中湖岸にある「ハイメディック山中湖倶楽部」が、会員制リゾートホテル内にPET検診拠点を設けている。同倶楽部は1994年にPET検診を始めた老舗で会員は2304人。会員は年に一度、リゾートに宿泊して複合チェックを受けられる。
現在募集している「Wコース」の場合、15年間有効の会員資格金は297万円。さらに毎年54万円の会費が必要だ。
運営するハイメディック(東京・渋谷)の伊藤豪取締役によれば、会員の多くは企業経営者や自営業者。「健康が経営に直結すると知っていて、本気で健康管理に力を入れている人たち」という。同倶楽部は会員の医療データを継続的に観察し、発病リスクの予見から受診先の手配まで、手厚くカバーする。
逆にコストを切り詰めて「PET界の格安航空会社(LCC)」を自称するツアーもある。北海道帯広市の旅行会社「旅の便利屋」は、市内病院で受診するPET-CTツアーを6万7000円から提供する。
この代金にはとかち帯広空港までの航空券代や現地交通費、宿泊料は含まれない。「観光を望まれれば手配するが、航空券も宿泊も今は個人のネット予約の方が安上がり」と半谷力社長。道内や首都圏から年間40~50人が利用する。十勝観光を兼ねる人も、急ぎ日帰りする人もいる。
地方23空港から上京し、東京でゆったり検診を受けるツアーを1月に始めたのはジャルパック(東京・品川)だ。
頭頸部MRIや冠状動脈CTが中心でPETは含まないが、帝国ホテルなどに宿泊し、東京国際クリニック(東京・千代田)の検診を受ける。価格は大阪発で26万円前後。同社の酒見京憲統括マネジャーは「地元での検診を敬遠する地方の経営者らの需要がある」とみている。
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PET ブドウ糖でがん早期発見
PETは、がん細胞が通常細胞の3~8倍のブドウ糖を取り込む特性を利用した検査法。数時間の絶食後、放射性同位元素で印をつけたブドウ糖液(FDG)を被験者に注射し、1時間ほど安静にした後、全身をPETカメラで撮像する。
悪性腫瘍がある部分にFDGが集中して輝くので早期発見につながる。ただ疑陽性を示すこともあり、判定には画像専門医の判断に加え、超音波診断などの併用が望ましいとされる。
病気が発見される前の予防段階で利用する場合は、基本的に健康保険の適用外で1回約10万円の自己負担が必要となる。精度を上げるためCTなどを併用すると13万円以上かかることもある。
(礒哲司)
[日本経済新聞夕刊2019年5月22日付]
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