池上彰と黒田博樹が語り合う 人生の壁の乗り越え方スペシャル対談(上)

2019/4/1

司会 今後を含めて、いま、どんなことを考えているか。

黒田 「現役時代は先発投手の一員として完投し、2ケタ勝利をあげることを目標にしてきた。その一つ一つの積み重ねが200勝という数字につながった。しかし、心身ともに難しくなってきたと判断したので引退を選んだ。自ら成績を残すことと、コーチになってほかの選手を指導することというのはまったく別の話だと思う。相当な覚悟がいるし、勝負の世界の大変さを知っている。指導者としてユニホームを着る姿が想像できない」

池上 「NHKで記者16年間、キャスターを16年間務めた。NHKを辞めた後、フリーで働いてきた時間が間もなく同じくらいの長さになる。本や原稿は書き続けていきたい。ただ、テレビの仕事というのは特に滑舌や瞬発力が大事な分野だ。自分が衰えてくることに気づかなくなることが怖い。今回、黒田さんの話を聞いて、自らの出処進退を考える時期が必要なのではないかと感じている」

次回は、若者の疑問に池上さん、黒田さんが答えた特別講演(下)を掲載します。

いけがみ・あきら 1973年、NHKに入局。松江放送局、呉通信部を経て東京の社会部で、長年記者を務めてきた。「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年間担当。2005年に独立。12年に東京工業大学教授、16年から特命教授。68歳。
くろだ・ひろき 1997年、広島東洋カープに入団。2008年から米メジャーのドジャース、ヤンキースに在籍。15年にカープへ復帰。16年に日米通算200勝を達成、カープの25年ぶりのリーグ優勝に貢献し、引退。背番号15は永久欠番。44歳。

大物を鍛えた 若き日の苦労

あまり緊張しない性分なのだが、この大物対談の司会役だけは、数日前から緊張した。対談が実現したきっかけは以前、黒田さんにインタビューしたとき、池上さんの番組のファンであると判明したことだ。池上さんがカープファン、黒田さんファンであることは承知していた。お互いリスペクトする間柄とあって、大物対談はとんとん拍子で実現した。

講演が開かれた2月は黒田さんの誕生月。講演後、学生から祝いの花束を手渡された

お二人には共通点がある。それは「人生、後ろに行けば行くほど、どんどん良くなる」こと。黒田さんの野球人生、池上さんのジャーナリスト人生、いずれも後半に大輪の花が咲いた。

逆に言えば、若いときはお二人とも苦労された。高校時代、黒田さんは補欠投手だった。池上さんは初任地の松江で、持ち場の警察署になかなか入れなかった。若いときに壁にぶつかっても、それを愚直に乗り越える。その積み重ねが道を開いていく。

今、壁を感じたり、つらい思いをしたりしている高校生、大学生にとって、この日のお二人のメッセージは、きっと心に届いたと思う。

(編集委員 鈴木亮)

参加の高校・大学生ら思い 「日々の積み重ね大事」「成功者の挫折に驚き」

特別講演には高校生や大学生約100人が参加した。若者が寄せた感想には様々な発見や思いが記されていた。一部を紹介する。

共通していたのは、自らの道を切りひらくには「日々の積み重ねが大事」といった反応だった。部活動や就職活動といった自らの体験に重ねる声が多かった。厳しい環境にあるときほど「いまできることを地道に取り組むという生き方に共感した」ようだった。

さらに、池上さんが新人記者時代、他社の先輩から助言を得た「斜めの関係」に注目し、実践したいという声もあった。また、黒田さんが引退を決断した際、ファンの惜しむ声があるなかで、自ら選択することの難しさ、大事さを感じたという指摘が寄せられた。

意外だったのは「実績をあげた著名人が若いころに多くの悩みを抱え、乗り越えてきた」という驚きの声が目立ったこと。若者たちの意識のなかには「成功者には挫折はない」という誤解があるのかもしれない。

若者たちは、池上さん、黒田さんの具体的な体験談や助言を聞き、人生を考える貴重な課外講座を体験したのではないだろうか。

(特別講演、聴講者の感想の構成は倉品武文)

[日本経済新聞朝刊2019年4月1日付]

「池上彰の大岡山通信 若者たちへ」は毎週火曜日に掲載します。これまでの記事はこちらからご覧下さい。

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