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太宰治も現代に復活 「異世界転生」小説が開く新境地

2018/11/13付 日本経済新聞 夕刊

ライトノベルの多様なジャンルの中でも、異世界転生小説の人気は高まっている

ライトノベル(ラノベ)の一大ジャンル「異世界転生」小説が多様化している。「主人公が転生先で活躍するサクセスストーリー」という定型の存在が、新感覚の作品を生み出す器の大きさにつながっているようだ。

「異世界転生」小説の流行を牽引(けんいん)してきたのは、小説投稿サイトだ。国内最大級の「小説家になろう」をはじめとするサイトで相次いで創作され、人気作は出版社から書籍化されるケースもある。

出版科学研究所の調べによると「異世界」や「転生」がタイトルに含まれる新刊書籍点数は2014年に128点だった。17年は490点に上り、3年で4倍に増えている。タイトルにこれらの言葉を含まないものもあるので、実際はもっと多いと考えられる。

典型的なストーリーは、事故などをきっかけに現実とは異なる架空の異世界へ転生した主人公がヒーローになるというものだ。「現実世界にかみ合わないものを感じる自己を投影し、こうだったらいいなという願望をかなえることができる」とラノベ最大手KADOKAWAの金田一健・MFブックス編集長は話す。

■アラフォーの主人公も登場

ラノベというと文庫版が主流だが、近年は単行本サイズでの出版も増えている。物語も主人公がサラリーマンだったり40歳前後だったりと「ラノベは若者向け」という概念を覆す。

異世界での自己実現も多彩になっている。内藤騎之介著「異世界のんびり農家」(KADOKAWA)は、「スローライフを送りたい」という現代人の願望に沿った物語で人気を博し、これまでに4巻を刊行。発行部数はコミックスも含むシリーズ累計で45万部に達する。

ラノベの枠を超えた「異世界転生」も登場し始めた。9月刊行の佐藤友哉著「転生!太宰治 転生して、すみません」(星海社)は、文学と異世界転生を組み合わせた破天荒な作品だ。自殺した太宰が現代日本に転生し、アイドルの文筆家デビューを支えたり、芥川賞パーティーに乱入したりするさまを、太宰の文体をならって書き上げた。

佐藤は純文学の三島賞を受賞しているが、ミステリー作家としてデビューした経歴を持つ。「青春の問題と事件がつながり、鬱屈した主人公が事件解決によって皆に感謝されるという若者向けミステリーの構造が大好きだった。それは異世界転生小説と同じ構造だと気づいた」と佐藤。「転生のフォーマットを使えば『人間失格』や『斜陽』のイメージ以外の太宰も描けるのではないかと考えた」と語る。

今年、メフィスト賞を受賞した名倉編(あむ)の「異セカイ系」(講談社)も、異世界転生を軸にしたジャンル横断的な小説だ。タイトルに含まれる「セカイ系」はサブカルチャーの類型の一つで、自己と特定の他者との関係が世界の危機や終末と直結する物語が展開される作品などを指す。

■応用が利く小説の構造

「異セカイ系」では、自分が書く異世界転生小説の世界と現実を行き来できるようになった主人公が、自作のヒロインを救おうと作品を書き換えるうち、現実も改変してしまう。不可解な謎を解く推理小説の要素も織り込んだ。

名倉は異世界転生小説の構造やギミック(仕掛け)に面白さを感じていたという。その上で「異世界転生小説は、その枠のなかで何ができるかを考える、いわゆる『大喜利』のようなもの」と話す。

KADOKAWAの荒川友希子カドカワBOOKS編集長は、同ジャンルは「物語に自分の価値観が揺さぶられるような小説とは楽しみ方が異なる」と指摘する。読者の思い通りの展開でありながら、異世界を舞台とすることで設定は無限に広がり、読者を飽きさせず面白さが際立つ。さらに、一定の型が出来上がっているからこそ「型破り」で斬新な作品の誕生にもつながっているのだろう。

(桂星子)

[日本経済新聞夕刊2018年11月13日付]

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