果物やサラダがお茶菓子に 秋田自慢のおもてなし寒天

リンゴにイチゴ、シイタケ、サラダ……。秋田県には何でも寒天で固める独自の食文化がある。農家の女性が農作業の合間にお茶菓子として出したり、冠婚葬祭で自慢の寒天を持ち寄ったり。味も見栄えも気にする秋田ならではのおもてなしの心だ。

波打つ稲庭そうめんの上のオクラとカニかまぼこが、透き通った寒天の中に浮いているように見える。作ったのは秋田県美郷町の農家、照井律さん(68)。秋田の寒天にはどんな背景があるのか。品川駅に近い県のアンテナショップ、あきた美彩館(東京・港)で8月上旬、小学生向けの寒天教室を開いていた照井さんに聞いた。
「卵寒天は卵や砂糖を使い、田植えなど農作業の疲労回復に役立つ。寒天を作ることはおもてなしです」。稲庭そうめんの寒天は棒寒天1本にめんつゆ大さじ2杯、砂糖20グラムを入れて作る総菜だ。同時に出した卵寒天は砂糖を150グラムも入れるので甘く、なるほどお茶菓子と言われるのにも納得がいく。

さらに背景を探ろうと、農家の女性でつくる横手地域生活研究グループの柿崎克子さん(65)、佐々木初子さん(69)、柴田由美子さん(63)に聞くと、3人とも口をそろえて「冠婚葬祭、運動会、花見など人が集まる場には寒天はつきもの。寒天はその人その人の個性が出て作るのが面白い」と教えてくれた。
県内のスーパーや道の駅で普通に見かける寒天だが、飲食店で出すところは意外に少ない。県内の飲食店に寒天料理をメニュー化するよう旗を振ったことのある斉藤育雄さん(67)いわく、「寒天はあくまで脇役だから」。斉藤さんの営む居酒屋、秋田乃瀧(秋田市)で7月下旬に出したのはエビを載せ、ジュンサイを浮かせた寒天。梅の酸味が感じられ、爽やかだ。「透明で中身が見えるので旬の食材を使いやすい」という。

小料理店、酒房くもりのちはれ(同)では地元の食材を使ったランチにカボチャ寒天などをデザートとして出す。オクラやトマトなどの夏野菜を薄味のだし汁で固めることもある。工藤幸聖(ゆきみ)さん(45)は「寒天の中に具材を沈める順番を考え、工夫する余地がある」と調理の楽しさを語る。
縁側カフェ作助(大仙市)ではラズベリーなどの手作り寒天が味わえる。寒天に野菜天ぷら、サラダなど計8品が付いたおまかせ定食はお薦めだ。店主の今野シオ子さん(69)は「自分で作った野菜を加工して食べてもらえ、楽しい」。秋田の寒天は労をいとわない女性たちが引き継いできた食文化だ。
寒天はテングサやオゴノリなどの海藻を煮て固めて凍らせ、さらに乾燥させて作る。秋田で愛用されているのは「棒寒天」と呼ぶ天然寒天。多くは長野県茅野市で作られているという。腐らず日持ちする保存食として雪深い秋田で重宝されてきた。
寒天料理は必ず出されるわけではないので、飲食店に事前に確認してほしい。どうしても食べたい場合はスーパーの総菜売り場へ行くといい。マヨネーズであえた野菜サラダの入ったサラダ寒天や、フルーツ寒天などが販売されている。
(秋田支局長 早川淳)
[日本経済新聞夕刊2018年9月6日付]
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