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オンライン診療、対象疾患は限定 要件緩和求める声

2018/8/27付 日本経済新聞 朝刊

スマートフォン(スマホ)など情報通信機器を使い、病院に行かずに画面で医師の診察を受けられる「オンライン診療」について国が今春、診療報酬の項目として新設した。都市部などで広がりつつあったが、対象疾患が生活習慣病や難病などに限定されたため利用者が減った医療機関もある。「要件を緩和して」という声も上がっている。

「動悸(どうき)や頭痛といった症状はありますか」。東京都葛飾区の「いつき会ハートクリニック」で、佐藤一樹院長は患者に問いかける。「体調は変わりなく、薬もきちんと飲んでいます」。そう答える患者は目の前にはおらず、机上のパソコン画面の中だ。

患者はあらかじめ診察時間を決め、自宅や職場で待機し、連絡を待つ。スマホやパソコン画面を通じ、自分で毎日計測した血圧や脈拍などを書き込んだ手帳を開いて見せるなど診察時間は対面診療とほぼ同じ5~10分。佐藤院長は患者の顔色や表情、手帳の記録などから処方箋を書いて郵送する。

佐藤院長は月に10人近くオンライン診療する。ほとんどは高血圧や心臓病などの患者。システムエンジニア(SE)や月刊誌の編集者など昼夜を問わず締め切りがある職種の患者のニーズが高いという。「血圧や心臓の疾患は悪化すると、突然死を招きかねない。こまめに診察するにはオンライン診療は重要」と力を込める。

国は今年4月、保険医療として診察や指導などの医療行為に支払われる診療報酬価格をオンライン診療についても明確にした。

対面診療での再診料に当たる「オンライン診療料」は70点(700円)、患者に指導した場合などに算定される「オンライン医学管理料」は100点(1000円)とした。いずれも月に1回請求できる。医療機関が通信費を含めてシステム利用の費用を別途徴収することも可能だ。

ただこうした診療報酬には「同じ医師が半年以上診察し、3カ月に1回は対面診療を組み合わせる」「おおむね30分以内で緊急時の対面診療ができる」などの条件が付いた。患者も生活習慣病や難病など一部に限定。これまでオンラインを使って診察してきた医療機関からは不満が漏れる。

「ふなくし皮膚科クリニック」(埼玉県三郷市)では18年4月にオンライン診療の利用患者数が激減した。16年11月の導入から利用者が増え続け、18年3月には約30人まで増えたが今は5人ほどに減った。診療報酬が受け取れないため独自にシステム利用料として500円を加算したところ、対面診療に切り替える人が相次いだためだ。

皮膚科などは今回の改定で保険適用の対象外となり、増え続けていた利用者が減った(埼玉県三郷市のふなくし皮膚科クリニック)

アトピーなどの症状が安定している患者には、同じ薬や保湿剤を継続的に出すことが多い。舟串直子院長は「通院を面倒に感じて病院から離脱する人を減らすため、ぜひ皮膚科も保険診療の対象にしてほしい」と強く訴える。

うつや不眠など精神疾患も保険対象外となった。

「おおぞら会つばさクリニック」(東京都町田市)の鈴木智広院長は17年9月からスマホアプリ「ポケットドクター」を導入し、約10人の認知症やうつ患者をオンラインで診察している。

症状が落ち着いている患者は対面診療でも同じ薬を処方するだけのことが多い。だが診療報酬の規定が足かせになり、患者を増やせない。鈴木院長は「もっと要件を緩和して、多くの患者が使えるようにしてほしい」と訴える。

オンライン診療を医療の質を高めるために使えないか模索も進む。

日本遠隔医療学会の近藤博史会長は、患者が自宅から血圧や心拍数などの値を医師に提供するモニタリングを併用すれば「医師が患者の状況をより詳しく理解できる」とみる。学術的な裏付けを進め、将来的には患者の生活習慣や体調管理の大量のデータを人工知能(AI)を使い、日々の診察に役立てたい考えだ。

医院と患者をつなぐオンライン診療アプリの開発・提供を手掛ける業界最大手のメドレー(東京)によると、今回の診療報酬改定で、精神科と小児科の診察回数が半減したという。

同社の豊田剛一郎共同代表は「国がオンライン診療を保険診療として位置付けた意義は大きい」と評価する一方、「不正利用を防ぐためにも国の慎重姿勢はやむを得ないが、高齢化対策や重症化予防など医療の質を上げるためにももっと現場の声を反映させてほしい」と話している。

◇  ◇  ◇

■服薬指導も在宅で 福岡市など特区で試験運用

高齢者など在宅療養中の患者や家族にとって、薬を取りに出掛ける負担は小さくない。国は「オンライン服薬指導」を認める方向へとかじを切り、18年7月からは公的医療保険の対象とした。国家戦略特区に指定した福岡市、愛知県、兵庫県養父市の3地域で試験的に適用し、全国へと広げることを検討している。

現状ではオンライン診療を行った際でも、医師が郵送する処方箋を患者が薬局に持ち込んで薬を受け取る必要がある。「服薬指導は対面」と規定されているためだ。

同月に全国で初めて公的保険を使ってオンライン服薬指導を行った福岡市。「薬局まで公共交通機関の本数が1時間に1本以下」「居住する小学校区に薬局がない」などの条件にあてはまる東区の女性患者が利用した。かかりつけ医が薬局へ処方箋を郵送。薬剤師がオンラインで女性に服薬指導し、自宅へ郵送で薬を送る流れだ。

女性はこれまで訪問で服薬指導を受け、薬剤師が往復1時間半を通って薬を運んでいたという。福岡市地域医療課の担当者は「薬局が近くにない患者に限る国の条件は厳しく、該当患者はかなり少ない」と指摘し、「在宅医療が増える高齢化社会で患者にも薬剤師にもメリットが大きい」として制度の広がりを期待している。

(松浦奈美)

[日本経済新聞朝刊2018年8月27日付]

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