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ザ・ビートニクス再始動 2人で奏でる新たな歌声

2018/6/4付 日本経済新聞 夕刊

ソロとは違う面白さを追求する鈴木慶一(左)と高橋幸宏

 YMOで活躍した高橋幸宏(65)とムーンライダーズの鈴木慶一(66)。1981年結成の伝説的な音楽ユニット、ザ・ビートニクスが再始動した。2人が織り成す音世界の魅力を追った。

 5月、東京のライブハウス。大歓声の中、幸宏と慶一がギターを手に登場し、新アルバム「エキジテンシャリスト・ア・シェー・シェー」から「鼻持ちならないブルーのスカーフ、グレーの腕章」を歌い始めた。

■超現実的な歌詞

 「空をたたんで 首にまきつけて 野鳥のように 今日はもう寝よう……」。反戦の思いをユーモアで包んだ超現実的な歌詞と風変わりなメロディーで、観客は早くもビートニクスの世界にいざなわれていく。

 慶一はギター、幸宏はドラムの名手でもあるが、ビートニクスの主役は2人のボーカルだ。2つの声が1つに溶け合い、独特のコーラスで会場を包み込む。

 歌とギターに専念していた幸宏が後半、後ろのドラムセットに向かった。観客は大喜びである。彼は左目の網膜剥離の手術を受け、しばらく安静を強いられていたのだが、日本が世界に誇るドラマーはリズムにうねりを与え、バンドを躍動させていった。

ライブで演奏する慶一(手前)と幸宏(5月11日、東京・EXシアター六本木)

 本編の最後は昨年、漫画家の赤塚不二夫生誕80年記念ライブのために2人が書き下ろした曲だ。赤塚漫画でおなじみの「シェー」のポーズの振り付けで、観客と一緒に「シェー・シェー・シェー」と大合唱した。

 別々のバンドで活躍していた2人がビートニクスを結成したのは1981年のこと。「バンドではできない実験的なことをやろうと思った」と口をそろえる。

 「バンドでは1つのことを決めるのにも多数決だから時間がかかるんですよ。逆にソロでは1人で悩むこともある。2人だと決断が早いんです」と慶一。幸宏も「これどうかな、いいね……で決まっちゃうからね。自分で全責任を負う必要がないから、むしろ面白いことができるのかな。途中まで曲を作って、続きは頼むよとバトンを渡すこともできるしね」と語る。

 2人組の身軽さを生かして、ビートニクスは断続的に活動してきた。81年の始動後は87年、2001年、11年にアルバムを出している。今回は7年ぶりの再始動ということになる。

 2人の書く歌詞はどこか似ている。「情けない男が出てくるところは似ていますね。ただ、慶一の方が検索型の作詞をするから語彙は豊富だと思いますよ」と幸宏は言う。

 慶一は「ネットを作詞に使っています。曲調がソフトロックだとしたら、ソフトという言葉を検索して関連語を見ていく。新作に入れた『ソフトリー・ソフトリー』はそうやって生まれたのです」と明かす。

 ビートニクスらしさとは何か。「自分たちが実感するのは、歌を録音して2人の声が重なったときです。ユニゾン(斉唱)で歌うと、幸宏でもない、私でもない音に聴こえる。これがビートニクスのサウンドの要だと思う」と慶一。

 幸宏も「1人ずつ歌うと全く違う声なのに、ハーモニーになると、どちらが上を歌ったのか分からなくなる。声の倍音が似ているのかな。だからソロでやるのとも違った面白さが出てくるんです」と同調する。

■別人格生み出す

 「声というフィジカル(肉体的)な面に突出した特徴が表れる。それがビートニクスの面白さ。2人で歌うと別人格の声になるのです。音楽にも同じことがいえます」と慶一は言う。

 2人が合わさってビートニクスという別人格を生み出し、YMOやムーンライダーズでもなく、お互いのソロとも違う新しい音楽を表現できるというわけだ。

 ビートニクスは8月開催の大型ロックフェス「サマーソニック」などに出演するが、その後はそれぞれのバンドやソロの活動に戻るという。しかし、2人は「いずれビートニクスの音が恋しくなる日がくる。また一緒にやるんだろうね」と異口同音に話している。

(編集委員 吉田俊宏)

[日本経済新聞夕刊2018年6月4日付]

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