出産と子育て継続サポート 日本版ネウボラ広がる
行政、担当部署の連携密に
出産や育児で悩み、課題を抱える母子を支えるワンストップ拠点「子育て世代包括支援センター」が各地に広がっている。母子への支援は、出産の前と後で担当の部署・機関が異なることが多く、連携不足から支援が途切れたり、不十分になったりしがちだ。参考にしたフィンランドの事業名から「日本版ネウボラ」とも呼ばれる同センターが調整役となり、切れ目のない支援の提供を目指す。
「助けてくれる親族や知人もいない。子供を育てる自信がないんです」。東京都文京区が2015年度から始めた「ネウボラ面接」では、出産や育児に不安を抱く妊婦からこんな相談が寄せられる。
ネウボラはフィンランド発祥の子育て支援拠点で、「助言の場」の意味。妊娠期から子供の就学まで子育て全般を専属の保健師らがサポートする。
日本では妊産婦や乳幼児に提供する公的サポートの多くは、行政の担当部署や施設が異なりがちだ。妊娠期の医療中心の支援から、出産後の子育て支援、虐待防止、保育などの福祉支援に移行する際に連携が不十分になったり、支援が途切れたりする懸念があった。
国は16年に母子保健法を改正。ネウボラの考え方を取り入れた子育て世代包括支援センターの設置を17年度から自治体の努力義務とし、情報共有や連携を強化する調整役と位置づけた。
文京区は法改正に先立つ15年度に同センターを設置し、区内の地区ごとに担当の母子保健コーディネーターを置いた。支援が必要な母子には介護保険のケアマネジャーのように、各種支援を組み合わせた支援プランを作成する。育児不安が強い母親向けに助産師らの育児指導を受ける宿泊型ショートステイも始めた。
ネウボラ事業で特に重要なのが、育児不安や養育環境に問題がある母子をどう発見するか。同区では、妊娠届の提出のため区役所を訪れたすべての妊婦を対象に保健師がネウボラ面接を実施。15年度から面接後に乳児用肌着など約1万円相当の「育児パッケージ」を贈るようにしたところ、面接率は約5割から約8割に上昇した。
同センターが中心となって医療機関や児童相談所、保健所、障害者支援施設、保育施設、民生委員らとの連携も強化。窓口を明確化することで支援が必要な母子の情報を提供してもらいやすくなった。実際、育児不安から妊娠中絶を検討していた女性について医療機関から情報提供を受け、同センターが支援に乗り出し、無事出産につながった事例もあったという。
子育て世代包括支援センターは17年4月時点で全国525市区町村が計1106カ所を整備。国は20年度末までに全国に広げることを目指す。
自治体の取り組みも様々だ。「わこう版ネウボラ」として取り組む埼玉県和光市では市内5カ所にセンターを開設。千葉県浦安市はネウボラ事業の一環で、ケアプランを作成したすべての妊婦らに5千~1万円相当のサービスを受けられる「子育て支援チケット」を配布する。「妊婦の約9割がプランを作成し、支援が必要な母子を見付けやすくなった」(同市)という。
ただ厚生労働省母子保健課の担当者は「一部では、センターの看板を掲げただけで、十分機能していないとの指摘もある」といい、取り組みに温度差が大きいのが実情だ。同課は17年8月、「センター業務ガイドライン」を作成。自治体職員向けの研修会も実施しており、同課は「自治体側には『何をすればよいのか』との戸惑いもあると聞いている。ガイドラインや研修会を通じて適切な運用を促していきたい」としている。
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公的支援 ニーズ高まる 核家族・共働き増 背景
公的な子育て支援のニーズが高まる背景には、核家族やひとり親世帯、共働き世帯の増加で親族や周囲のサポートを得られないまま、母子が孤立しやすくなっていることがある。
厚生労働省によると、子と親、祖父母の三世代同居の世帯は1986年の15.3%から2016年には5.9%に減少。ひとり親世帯は86年の5.1%から7.3%に増えた。専業主婦世帯が減り、90年代半ばに共働き世帯が逆転。17年は専業主婦641万世帯に対し、共働き1188万世帯と2倍弱の開きがある。
東邦大看護学部の福島富士子教授(母子保健政策)は「出産時の入院期間が短くなり、育児指導を十分受けずに家庭に戻る母子も増えた。親族や知人に頼れず、授乳方法、離乳食調理や経済的な問題に不安を抱えたまま育児に直面している」と課題を指摘。「特に母子が愛着形成する産後1カ月のケアが重要で、産前産後の継続的なサポート体制が不可欠だ」と強調した。
(倉辺洋介)
[日本経済新聞夕刊2018年3月28日付]
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