折り紙、すごいぞ! 地図や飲料缶、技術生かす建築や医療にも応用模索

5歳の長女が好む折り紙はハートや指輪などおしゃれ。ツルや手裏剣の記憶しかない記者には驚きだった。調べてみると、折り紙の世界ではこの数十年間でもっとすごいイノベーション(技術革新)が起きていた。

1月、折り紙専門ギャラリーのおりがみはうす(東京・文京)をたずねると、「おりがみ“戌(いぬ)”展」が開催中だった。愛好家や作家の創作折り紙の作品は4本足でしっかり立ってほえそうだ。

日本人はいつから折り紙で遊んだのか。「様々な形を折る折り紙が遊びとして定着したのは江戸時代です」。日本折紙学会評議員代表の西川誠司さんが教えてくれた。

17世紀に井原西鶴の浮世草子で「おりすえ」と呼ばれた折り紙が登場。1797年には世界最古とされる折り紙本「秘傳千羽鶴折形」が出版に(写真は日本折紙学会所蔵)。1枚の紙に切り込みを入れ、ツルの尾や口を連結させた作品が49種も載っている。

国際化も始まる。明治時代、ドイツなど海外の折り方が日本の幼稚園の保育教材などとして普及。第2次世界大戦後は愛好家などの交流が世界で活発になった。創作折り紙作家、吉沢章さん(故人)が高く評価されるなどし、折り紙は共通語「ORIGAMI」として定着した。

1970年代以降、学術研究が始まる。折り目の位置を示す展開図を幾何学的に分析。折る前に新しい展開図を作る方法が見いだされた。折る技も高度化し「6本足を持つ昆虫など複雑な作品が生み出された」(西川さん)。

2000年前後からコンピュータープログラムによる折り紙設計が始まり、目的の形を入力して展開図を作ったり、紙が折られて変化する様子を再現したりでき、多様な作品を生む土壌ができた。

「コンピューターの力を借りてきれいな曲線が折れるようになった」。筑波大学に、折り紙用ソフトウエアを開発する三谷純教授の作品を見にいくと、見たこともない立体が並んでいた。

例えば「8枚羽根の球体」。未来から来たような不思議な形だ。海外の美術館などの依頼を受け作ることも多い。

折り紙に着想を得たモノも身近にあった。代表が「ミウラ折り」の地図だ。平行四辺形をタイル状に並べた折り目をつけ、山折りと谷折りを繰り返す。折りたたんだ後、端を持ち一気に広げ一気にとじられる。「何度開閉しても破れにくく、自治体の防災地図や観光マップに使われている」とミウラ折りラボ(東京・新宿)の阿彦由美社長。

ミウラ折りは宇宙航空工学の専門家、三浦公亮氏が70年に考案した。95年打ち上げの衛星では、折りたたんだ太陽電池パネルの一端を引き、約6メートル四方の平面に効率よく広げ、たたむことに成功した。

飲料の容器にも折り紙の技術が使われている。飲み口のタブを外すと、凹凸が浮き出るキリンのチューハイ「氷結」など、ダイヤカット缶はミウラ折りの応用だ。

折り紙の可能性には、工学や建築、医療分野の研究者も注目している。

北海道大学で「細胞折り紙」の研究に取り組むのは繁富香織准教授だ。極小の樹脂プレートを並べ、またがるように細胞を培養すると、成長した細胞がもともと持つ引っ張る力が働き、折り紙を折るように立体的な形になる(写真は繁富准教授提供)。

プレートの形を変えることで立方体や空洞のある管のようになる。自分の血管の細胞をプレートに培養して人工血管のようなものを作り、それを体内に入れたり、体内で溶ける素材で作ったり。「折り紙の技術を使って立体が作れることで、再生医療へ応用できる可能性がある」と話す。

1メートルの100万分の1に当たる1マイクロメートルという単位が舞台の極小世界の話。折り紙は科学の最先端も引っ張っている。

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若者に広がる「折り紙の輪」

作品を説明する長山海澄さん

若い世代で、展開図を公開し交流サイト(SNS)で情報共有する「折り紙の輪」が広がっている。全国の大学サークルでつくる「折り紙サークルネットワーク」は2015年に発足。3月31日から東京芸術劇場(東京・豊島)で展示会を予定する。

代表で東京大学3年生の長山海澄さん(21)は島根県出身。小学6年の時、多面体の図形パズルや折り紙にはまった。東大の学園祭で折り紙サークル「オリスト」の展示を見て「同年代の仲間が欲しい」と東大進学を志した。作品はカメレオンなどの動物や、72個のパーツをのりを使わず組み上げる立体などがある。

中学や高校でも開成中学・高校や渋谷教育学園幕張中学・高校などに研究部や同好会がある。

(畑中麻里)

[NIKKEIプラス1 2018年2月17日付]

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