「一夜漬け」必勝法は? 反復テストが記憶定着に効果
試験の前日に知識を詰め込む「一夜漬け」。覚えたことを定着させるにはひたすら読むべきか、書くべきか、それとも――。受験シーズンに記者(23)が効率の良い暗記方法を探った。
一夜漬けに秘策はあるのか。30年以上記憶術の研究や指導にあたり、著作も多い宇都出雅巳さんを訪ねた。「知識を定着させるには、どれだけ繰り返しの作業をするかが重要」と宇都出さん。じっくり数回読む・書くより、読み書きの回数を重ねた方が覚えやすいという。繰り返すと脳が重要な情報だと判断して忘れにくくなるからだ。
読むのと書くのとではどちらが記憶しやすいか。英語能力テスト・TOEICが満点の先輩記者に憧れ、一晩でTOEICの英単語100語を暗記しようと決意した。制限時間は午前1~3時の2時間。3時に書き取りテストをし、覚えた単語数を確認する。
1回目はノートを使わず、単語帳を読むことに徹した。英語の発音と和訳を繰り返して音で覚える。文字を書かないのでつづりが覚えにくい。
宇都出さんによると「意味とつづりで関連する文章を作りイメージ記憶にすると効果的」。「悲しい」という意味の「lamentable」なら「ラーメン食べると悲しい」という文章にして場面をイメージしながら覚える。
自分なりに文章を作った。「detain=引き留める」は「出たいが引き留められる」。本来の発音とは異なるが、つづりは覚えられる。
イメージ記憶を使いつつ読み込んだ結果、暗記できたのは92語だった。
2回目は前回と異なる単語100語を書いて覚える。読むより時間がかかり、同じページを見飽きた。効率的に書いて覚えるには「指で空間に書く『空書(くうしょ)』がおすすめ」と宇都出さん。ノートに文字を書くより速い。
記者のように飽きやすいタイプは、意識的にページを変えるのも有効だ。1ページに10語ある単語帳なら、1ページ1語ずつ10ページにわたって覚えていくとマンネリ化しない。
なんとか集中力を保った2回目は、95語を覚えられた。
定着率をより上げる方法はあるか。慶応大学の伊東裕司教授(認知心理学)によれば「暗記したものを随時テストするとよい」。脳が一度仕入れた情報を「思い出す」ことで記憶が強化されるからだ。
例えばテストを短時間で繰り返す方法。3回目の実験では書きつつ、10語進むごとに最初の単語に戻りテストした。最初の方の単語ほど繰り返しテストすることになる。
思い出す作業を繰り返した3回目は、100語すべて暗記できた。伊東教授は「記憶は『机の引き出し』のイメージが強いが、実際は違う」と説明する。脳は覚えたものをそのまま思い出すのではなく、解釈や理由付けで思い出すのだという。
一夜漬けで翌日のテストに備えるとき、仮眠はとるべきか。日本睡眠学会認定医の遠藤拓郎さんは「徹夜で試験に臨むのは最悪のパターン」と話す。「夜に覚えて、少しでも睡眠をとって朝もう一度復習するのが良い」(遠藤さん)。眠っている間に記憶が定着するからだ。
仮眠のポイントは時間と場所。脳が深い睡眠モードに入ってしまう手前の15分以内にするか、睡眠サイクルとされる90分区切りで1時間半か3時間寝ると起きやすい。
場所は机の上にタオルを敷いて顔をつけるか、リクライニングさせた椅子。ソファや床は深い眠りに落ちやすいので避けよう。どうしても徹夜で勉強するときは、甘いアメ、ガムなどで血糖値をあげ、集中力を回復させるとよい。
一夜漬けはこれで何とかなりそうだ。ただ短期的に詰め込んだ知識は忘れやすいのか、不安になった。伊東教授は「思い出せなくなっても記憶がなくなったわけではない。一夜漬けの知識もゼロにはならない」と話す。今回練習した300語も、頭のどこかに入っていると信じよう。
◇ ◇ ◇
「クラブ由美」の伊藤由美さん 3000人の顔と名前 画像で覚える
高級ブランドショップなどが立ち並ぶ東京・銀座の一角。今年35周年を迎える「クラブ由美」でオーナーママを務める伊藤由美さんは、3000人以上の客の顔と名前を覚えている。
伊藤さんは「目のなかのシャッターを押すように、名刺と顔を併せて画像で覚える」という。名刺を受け取ったら、相手の顔と一緒に視界に収め、その画像ごと記憶する。
おもてなしの仕事を通じて身につけた記憶術。「記憶は努力。自分の得意な方法で覚えようとするのが大事」と話す。
(相馬真依)
[NIKKEIプラス1 2018年2月3日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。