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2001年ごろ、川重が製造した米国の地下鉄車両に乗る金花社長(中央左)

1994年、英国で大型案件をやり遂げた川崎重工業の金花芳則社長(63)は再び米国に赴任した。

ニューヨーク地下鉄に納入した次世代車両の試作車でトラブルが続いたため、応援に駆けつけました。最初は出張ベースでしたが、その間に量産化が決まり、結局14年間も米国で働くことになりました。当時のニューヨーク地下鉄はスピードメーターがない古いシステム。そこに最新式のモニター装置、無線設備を導入しようとしたため、不具合が相次ぎました。

ドアの開閉時に点灯する発光ダイオード(LED)ライトが常につく「クリスマスツリー現象」が起きたり、モーター制御装置が壊れたり。一方、ライバルのカナダ・ボンバルディア製の車両ではほとんど問題が起きません。「なんでやろ」と首をひねりました。

このままでは失注の恐れも。そこで日本流サービスを導入して巻き返しを図った。

実績や技術ではボンバルディアにかなわない。だからきめ細やかな対応力で勝負しようと考えました。例えば、金曜夕方に故障が起きたらボンバルディアは「月曜まで待って」「運転士の操作ミスの可能性がある」という対応です。

こちらは「残業代を増やすからすぐ行け」と現地の従業員に指示し、運転士のミスであってもすぐに修理しました。従業員も休日に出勤したくないので故障が起きないよう真剣に整備に取り組むといういい循環が生まれました。良い評判が広がった結果、ボンバルディアに競り勝ち、現時点までに2千両以上を納入しました。

「前例を覆す」ことが成功の近道だと確信した。

日米を行き来していた82年、双方のやりとりはテレタイプ端末を使った「テレックス」が主流でした。ローマ字に直した日本語の文章をタイプ入力して送信するので時間がかかる。国内はファクスが使えたので、「米国にも送れるんじゃないか」と思い、試したらできました。やってみれば簡単なことですが、誰もやろうとしませんでした。

チャレンジ精神と言えば大げさですが、いかに手を抜こうか考えるんですね。そこは大事じゃないと。キーパーソンだから攻略しよう、実績で劣るなら違うところで勝負しようと考えたのも同じこと。変えるべき前例を見極めるには、幅広い知識が必要です。だから営業には技術の知識を、技術には営業のセンスを持つよう教育しています。

あのころ
 ボンバルディアなど欧米トップは90年代、車両に加え、信号・通信・運行管理なども手がける総合鉄道企業へと変貌し、車両主体の日本勢はパッケージ提供できず、苦戦を強いられた。そこで川崎重工業は案件ごとに独自仕様が必要な米国やアジアの都市交通に注力した。
[日本経済新聞朝刊2018年1月16日付]

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