鍋の焦げ付き、素材別解決法 煮立てはがす重曹の魔法
うっかり目を離したすきに、鍋を焦げ付かせてしまった経験がある人は多いだろう。必死でこすってもなかなか取れず、あきらめていないだろうか。焦げをきれいに落とす方法を探った。
鍋は一度焦げ付いてしまうと厄介だ。カネヨ石鹸(東京・荒川)商品開発グループの土田尚衛さんは、焦げを「食べ物の脂や糖、タンパクが炭化した状態」と説明する。言い換えれば、燃えるものがすべて燃えたあとに残ったもの。落とすのに時間と労力がいるはずだ。
注意すべきなのは、硬いタワシなどでガシガシとこすらないこと。鍋を傷つけるからだ。どんな鍋も、まずは焦げをふやかすことが基本。水をはって弱火で煮たら、しばらくおく。炭化する前の状態に戻すため、水分を補おう。それくらいでは落ちない頑固な焦げは、鍋の材質に合った方法で落とす必要がある。
炭酸ガス発生 発泡力で浮かす
ステンレス、ホーロー、フッ素樹脂加工、土鍋など多くの材質に有効なのが、重曹を使うやり方だ。焦げがかぶるほどの水を入れ、重曹をたっぷり(水の3~10%)入れて火にかける。沸騰すると、ボコボコ大量の泡が出てくる。しばらく煮たあと、火を止めて数時間放置すると、焦げが浮き上がってくる。
「重曹水を加熱すると、炭酸ガスが発生する。この発泡力で焦げをはがす」と土田さん。加熱することで、弱アルカリ性だった重曹が「炭酸ナトリウムに変化してアルカリ度が高まり、焦げに効く」。
重曹の投入は煮る前に。熱湯に入れると、ふきこぼれて危ない。重曹の量と放置時間は、焦げ具合によって調整しよう。鍋底の焦げはどうするか。焦がした鍋より大きな鍋を用意。そこに重曹水を熱し、問題の鍋をつければよい。
重曹でも取れない焦げ付きは、クリームクレンザーを塗布し、こすり落とそう。一般的なクリームクレンザーに配合されている研磨剤はソフトな炭酸カルシウム。比較的、鍋を傷つけにくい。界面活性剤も含まれ、物理的効果と化学的効果が両方期待できる。
このとき重要なのが、こする道具。スポンジだとクレンザー成分を吸収してしまい、効果が半減する。土田さんが薦めるのはラップだ。「研磨剤が鍋に密着し、効果を最大限、発揮できる」。ラップを丸めるか、もしくは折りたたんで、優しく円を描くように焦げをこすり落とそう。
ただしフッ素樹脂加工の鍋にクレンザーはNG。研磨剤で加工がはがれると、そこが焦げ付きやすくなる。そもそも焦げたということは、焦げ付き防止のフッ素樹脂がはがれかけている印。そうなったら焼き物は避け、水分の多い料理に使うのが賢明だ。
雪平鍋などによく使うアルミ。これは重曹とクリームクレンザーがともにNGの材質だ。軽くて熱の通りがよいが、デリケートな金属なので、手入れが大変。北陸アルミニウム・お客様相談係の塚本直人さんは「アルカリに弱く、重曹を入れると黒ずむ」と話す。ただし黒ずみは人体に害はない。
またアルミ鍋は、耐久性を高めるため「表面に酸化処理した被膜を施す"アルマイト加工"がされていることが多い」と塚本さん。クリームクレンザーでこすると、これが削られてしまい、黒ずみや腐食が進みやすくなるという。
アルミ鍋が焦げ付いてしまったら、お湯でふやかし、中性洗剤とスポンジで地道に処理することを心がけよう。
自然の力利用 天日干しも有効
一方、表面加工されていない鉄鍋のひどい焦げ付きには「空焼きが一番」と話すのは、家事アドバイザーの毎田祥子さん。焦げた鍋をそのまま強火にかけ、さらに焦がして、完全に炭化するまでしっかり焼き切る。「冷めたら金属製のヘラなどでポロポロとこそげ落として」
自然の力を利用するエコな焦げ取りを紹介しよう。それは「鍋を日なたに置きっぱなしにするだけ」(毎田さん)。要するに天日干しだ。鍋の材質は問わない。
焦げの度合いや日照時間により、放置は数時間でも1週間でも。雨にぬらさないよう気を付け、焦げをカラカラに乾かす。すると、割り箸などでちょっとこするだけで「かさぶたがむけるように焦げがきれいにはがれることが多い」(毎田さん)という。先人の知恵が詰まったこの方法、ぜひ試してはどうだろう。
(ライター 松田亜希子)
[NIKKEIプラス1 2017年8月26日付]
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