毎日使うからこそほしい、究極の日常使い料理道具
合羽橋のプロが選ぶグッズ3選
食にまつわる道具は毎日使うものだからこそ、長く使えるものを選びたい。作ることはもちろん、食べることにも精通しているプロの料理人は、日常使いの道具にも妥協しない。さまざまなものを使いこなした結果、プロが最終的にたどり着く究極の日常使い品3選はこれだった。
・はし藤の高級箸
・銅源サイトウの錫(すず)のちろり
・飯田屋のいちょうのまな板
1本ずつていねいに削っていく貴重な箸
日本人が毎日必ず使うと言ってよいのが箸だろう。割り箸の普及と、安価で買えるものが多数あるため、登場頻度のわりに軽んじられているのではないだろうか。それこそピンからキリまである箸だが、極めてみるのもよい。
箸の専門店である「はし藤」の海宝護さんによると、「一膳数円の割り箸から数万円の高額商品までありますが、その中でも黒柿を使った三重県尾鷲市の職人、下地幸さんのものが人気です。いろいろ持ち比べてみて最後にこの箸を選ばれる人が多いですね。もっと高級な材質のものも扱っているのですが、結局これに落ち着くというのが下地さんの箸の魅力ですね。黒柿の木というのは意図して生やすことができないもので、偶然できるものを待つしかありません。古くは正倉院にも黒柿でつくられた物入れやお盆もあったようで、とても貴重な材質のひとつです」
1本ずつていねいに削って作り上げる「下地建具店 黒柿の箸」はとにかく手触りがすばらしく、手に吸い付くようになじむのだ。持ち比べて最後にこの箸に戻るのも分かる気がする。
箸は手入れの仕方によって長持ちするという。「下地さんがお勧めするお手入れ方法は胡桃をガーゼに包んでつぶし、その油を塗ってあげるというやり方。こうすると数カ月でなんともいえない味わいに変化していきます」(海宝さん)
もう一膳は京都の高野竹工がつくる「節箸三ツ節」という箸。「こちらは竹材からできていますが、一膳の中に三箇所の節をもつ箸というのはとても貴重です。限られた若い竹の根元のほうからしか採れないのです。その希少性をご存じの方はこれを選ばれます」(海宝さん)
一見して特別なものとはきづかないかもしれないが、持てば分かる。自分だけが知る心地よさこそが最高のぜいたくなのかもしれない。
日本酒のおかんをすばらしくマイルドに
熱かんがおいしい季節。プロがおかんするときに利用するのが「ちろり」だ。熱伝導がいい銅製のちろりも評価が高いが、さらに優れているといわれるのが錫製のもの。
銅源サイトウの3代目、斉藤源次郎さんの夫人のかよ子さんいわく「日本酒がすばらしくマイルドな味になるのが錫製。雑味のないおいしい熱かんになりますよ」。錫は不純物を吸収し、水を浄化する効果があるともいわれている。金や銀と同等の価値がある貴重な金属とされ、古くは宮中で使われていたが、江戸時代になると一般に広まったという。また、「錫のちろりでかんにすれば、二級酒が特級酒になる」というたとえもあるくらい、日本酒をおいしくするのだとか。
特に純度が高いのが大阪、千田製のちろりで、ずっしりと重量感がある。高価だといわれている銅製のものの、さらに3倍近い値段ではあるが、何十年も愛用できることを考えれば決して高くはないだろう。
長時間切っても手が疲れないまな板
まな板も毎日使うものの筆頭であるが、包丁との相性を考えるとやはり材質は木材がよい。ヒノキ、桐もいいが、飯田屋の6代目飯田結太氏はイチョウをすすめる。
「イチョウの木肌はなんともいえないなめらかな手触りで、適度な油分があるために水はけがよく、縦方向に立てかけておくとさっと水がきれるので衛生的にも安心。包丁の刃あたりもよく、長時間切っても手が疲れないということでプロの愛用者が多いんです。使い古した感じになってきたら、削りなおし(有料)もできるので、いつまでも愛着を持って使い続けられます」(飯田さん)
「woodpeckerいちょうまな板」はwoodpeckerという岐阜のメーカーのもので、木地職人の家系に生まれた福井賢治氏が2008年に立ち上げた。使う前にさっと水でぬらすこと、洗剤を使わずにたわしでこすり洗いすること、使用後は縦目方向に立てかけて水を切ることが気持ちよく使うコツだ。
(ライター 三井三奈子)
[日経トレンディネット 2015年12月9日付の記事を再構成]
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