仏像や埴輪、間近に迫る 国立4博物館が常設展示刷新
東京、京都、奈良、福岡の国立4博物館が相次ぎ常設展示施設を刷新した。巨大な仏像や有名な埴輪(はにわ)が間近に迫るなど、国立館ならではの豊富な所蔵品が新たな演出で魅力を増している。
やわらかな光が満ちた広々とした室内に、人の等身大以上の神々しい仏像が居並ぶ。奈良国立博物館(奈良市)の常設展示施設「なら仏像館」は1年半の改装期間を経て、4月にオープンした。
金箔の輝きがまばゆい高さ2メートル超の「阿弥陀如来立像」(兵庫・浄土寺蔵)は鎌倉期の仏師、快慶の作。木の質感も温かな「釈迦如来立像」(京都・法明寺蔵)は1本の木から彫った平安期の一木(いちぼく)造だ。
国宝や国重要文化財を含め、この部屋だけで十数体の仏像を展示する。ガラスケースや立ち入り禁止のロープは使わず、手を伸ばせば届きそうな近さにある。計12室ある仏像館全体では100体近くが並ぶ。心ゆくまで名品の数々を眺めていられる。
博物館といえば収蔵品が傷まないように照明を暗くした室内でガラスケースをのぞき込むイメージがある。改装前の同館もこの例にもれなかったが、新たに設けた内壁は淡い桜色のしっくいで塗り上げ、床も薄い灰色で明るい雰囲気に統一。間接照明を主体にし、中央の大きな3室はガラスケースをすべて撤去した。
「作品の細部をどれだけ見せられるかを追求した。表面の肌合いまで感じ取ってもらえるはず」。同館の岩田茂樹上席研究員兼美術室長は自信をのぞかせる。
部屋全体で作品
京都国立博物館(京都市)も常設展示施設を「平成知新館」として2014年9月にリニューアルした。最も大きな1階展示室は幅約40メートルの大広間で、仏像中心に展示する。高さ2メートル超の「大日如来坐(ざ)像」(大阪・金剛寺蔵)など、等身大以上の仏像が並ぶが、暗い空間でスポット照明を当てる演出。奈良博とは対照的だ。
仏像の細部を見せるより彫刻としての陰影を強調し、室内は神秘的な雰囲気に満たされる。「この部屋全体で1つの作品ともいえる」と山本英男学芸部副部長は胸を張る。
東京国立博物館(東京・台東)は数ある常設展示施設のうち平成館の「考古展示室」を15年10月に全面刷新した。照明やガラスケースを大幅に入れ替えた。
個々の作品に光
以前は展示全体で考古学の大まかな流れを理解させることに主眼を置いていた。だが、「個々の作品をしっかり見てもらう方針に転換した」と白井克也考古室長は説明する。
象徴といえるのが入り口に立ち、来場者を出迎える古墳時代の「埴輪 挂甲(けいこう)の武人」。完全武装した東国武人の像で、いわゆる埴輪のイメージにぴったりの作品だ。埴輪として唯一の国宝指定も受けている。「東博の新たな顔になってもらえれば」(白井室長)との狙いもある。
九州国立博物館(福岡県太宰府市)は15年10月、開館10周年を機に常設展示施設「文化交流展示室」の構成を見直した。作品の横に5つの時代別に色分けしたカラーバーを添え、旧石器時代から近世まで時代区分が一目で分かるようにした。順路を設けない「自由動線」の展示だが「いつの時代の作品か分からず、かえって見にくいとの声があった」と河野一隆企画課長兼文化交流展室長は言う。
自治体や企業などが毎年のように新たな博物館や美術館をオープンしている。国立4館でリニューアルが相次いだのは設備の更新時期が重なった面もあるが、「豊富な所蔵品をどう活用するか。各館の担う役割がより明確に求められ、それぞれが個性を打ち出している。今後もこの流れが続くのではないか」と日本仏教美術史が専門の根立研介京都大教授はみる。
(大阪・文化担当 田村広済)
[日本経済新聞夕刊2016年7月25日付]
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