マンションで楽しめる「新型盆栽」 女性に人気
洋風家具とも調和
風景を描く意識が大事
9月上旬、さいたま市のある建物内にエプロン姿の男女15人が着席した。目の前には小ぶりなモミジとツツジが並ぶ。パチンパチンとハサミの小気味よい音が響き、みるみる鉢の上に木々が配置され始めた。
老舗盆栽園「清香園」が愛好者の裾野を広げようと開く「彩花(さいか)盆栽教室」の授業風景だ。伝統的な盆栽は観賞に堪えるものとするのに最低でも数年かかるというが、彩花盆栽は「作った日からすぐ楽しめるよう工夫した」(教室主宰の山田香織さん)。
下に草を植えたり、砂を敷いたり、独自の鉢を使ったりして鉢上に日本的風景を描き出す盆栽の楽しみを手軽に味わえるのが特徴の1つ。この風景を表現する意識を持つことが盆栽と普通の鉢植えとの最大の違いだ。ちなみに短期間でつくっても手をかければその後、何十年と育てられ、紅葉や開花も楽しめる。
この日の授業でも約2時間で、2つの鉢にそれぞれモミジとツツジを植え、土をコケや白い砂で飾った盆栽が完成した。小型サイズながら、モデルとした京都の日本庭園をありありと想像させるたたずまいだ。
参加した同市在住の重野千夏さんは「昔から植物栽培が趣味だったが、集合住宅に引っ越して庭がなくなった時、この盆栽を知った。ベランダで十分育てられる小ささなのにきちんと風景として楽しめる」と笑顔で語った。
手軽な盆栽を提案する動きはほかにも広がる。現在の都市住居に合った盆栽の教室を開く塩津丈洋植物研究所(東京都東久留米市)の塩津丈洋さんは「鉢だけで盆栽は大きく変わる。伝統的には底の浅い和風の鉢が多いが、これにとらわれず愛着を持てるかわいい鉢を使えばいい」と話す。
塩津さんは若い人にも好まれる独自デザインの器を用意し、高さ20~30センチの小さめの木々を主に使ってコンパクトにまとめた盆栽を教える。技術面ではまずハサミ1本でできることを中心に教えており「短時間の教室でも盆栽の基本的魅力は十分に学べる」という。
自然観察が上達の近道
盆栽を始める時の基本的な準備は苗木、土、器(鉢)、土入れ、盆栽バサミ、はし、ネット・針金などがあるが、塩津丈洋さんは「最初はホームセンターや100円ショップで手に入るもので構わない」と話す。
特に盆栽バサミは多くの種類があり、価格も高低さまざまだが、塩津さんは「自分の手になじむことが何より大事。高級なものが必ずしもすべての人に向くとは限らない」と説明する。
基本装備がセットされた教室などに参加するのも手だ。清香園は埼玉県と東京都にある教室に通えない人むけに、通信講座も用意している。一方、塩津さんの研究所は、教室を開いていない時でも電話で植物や手入れの道具の問い合わせには随時対応している。
剪定(せんてい)などの技術習得も大切だが、まずは鉢に描く風景を豊かにイメージできるようになることも上達への道だ。清香園の山田さんは「盆栽をきっかけに、旅行や山歩きの新しい魅力に気づいたという受講者は多い」と話す。旅行や自然散策で美しい風景への観察眼を磨けば、鉢と向き合う時以外も盆栽の楽しみは広がっていく。
(堀大介)
[日経プラスワン2014年9月20日付]
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