吹き抜ける風が心地よい季節。山間部まで足を延ばせば、青々とした緑と清流が迎えてくれる。遊歩道があり、家族連れでも散策できる新緑の美しい渓谷を専門家に選んでもらった。
1 | 1750ポイント 奥入瀬渓流(青森県十和田市) |
渓流沿い約14キロにわたり頭上をブナやトチノキなど広葉樹の新緑が埋め尽くす。コケで覆われた岩が至る所にあり、変化に富んだ川の流れを楽しめる。遊歩道沿いに14カ所ある大小様々な滝も見どころの一つ。
「木陰でもあふれそうなほどの緑一色。光を浴びたコケの美しさに驚く」(村上真一さん)、「新緑に彩られた渓流沿いに咲くヤマツツジの赤い花も美しい」(山梨勝弘さん)
(1)5中~6上(2)0176・75・2425(十和田湖国立公園協会)(3)JR八戸駅からバスで約2時間 |
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2 | 990ポイント 菊池渓谷(熊本県菊池市) |
(C)菊池観光協会 ゆるやかな渓流沿いに、ケヤキやカエデなどの広葉樹を中心にモミやツガなどの針葉樹も含め約20種類がうっそうと茂る。夏でも平均水温は13度と低く、涼しい。動物なども多く、野鳥だけで54種類が確認されている。
「清流は浅瀬が多く、やわらかで女性的な美しさ。林野庁などが制定した『森林浴の森百選』にも選ばれる新緑は圧巻」(富田文雄さん)
(1)5中~6上(2)0968・25・0513(菊池観光協会)(3)菊池温泉から車で30分 |
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3 | 780ポイント 黒部峡谷(富山県黒部市) |
深くえぐれたV字峡谷沿いと新緑の取り合わせに自然の雄大さを感じる。全長20.1キロに及ぶトロッコに乗れば、谷間の激流と斜面を覆う新緑を一望できる。周辺には温泉もあり、散策後の入浴も楽しめる。
「たっぷり雪解け水が流れる渓谷沿いは轟音が響き、迫力がある」(富本一幸さん)、「峡谷だけで一つの観光地、目的になる日本一ともいえる峡谷。スケールが大きい新緑を楽しめる」(稲葉教之さん)
(1)5下~6下(2)0765・65・0022(黒部・宇奈月温泉観光協会)(3)富山地方鉄道宇奈月温泉駅からすぐ |
4 | 730ポイント 上高地・梓川(長野県松本市) |
標高約1500メートル、広葉樹と針葉樹が混ざった多様な木々の新緑が見られる。残雪の山々や澄んだ川、つり橋との対比も。「笹やぶに覆われた支流も美しい」(寺沢秀治さん)
(1)6上~下(2)0263・95・2405(上高地観光旅館組合)(3)松本電鉄新島々駅からバスで約1時間
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5 | 220ポイント 面河渓(愛媛県久万高原町) |
西日本最高峰、石鎚山を源にする渓流。標高1500メートル以上の山地に囲まれ、滝や激しい瀬が連続する。絶壁や奇岩などを新緑が彩る。「巨大な1枚岩など圧倒的な自然美」(小松毅史さん)
(1)5上~下(2)0892・21・1192(町観光協会)(3)JR松山駅からバスを乗り継いで約2時間
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6 | 210ポイント 滑床渓谷(愛媛県宇和島市) |
四万十川の支流。名の通り、渓谷全体が水で滑らかに磨かれ、つるつるした岩盤に柔らかな新緑が色を添える。「各所にある広々とした岩肌のほか、落差のある豪快な滝も見事」(竹田賢一さん)
(1)5上~6上(2)0895・42・1116(松野町役場)(3)JR予土線松丸駅からタクシーで約20分
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7 | 190ポイント 三段峡(広島県安芸太田町) |
切り立った岸壁をぬうように流れる深い色の川沿いに新緑が張り付く。小舟から楽しむことも。「落差30メートルの三段の滝など無数の景勝地が連なる」(富田さん)
(1)5中~6中(2)0826・28・1800(町観光協会)(3)広島駅からバスで2時間
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8 | 180ポイント 龍王峡(栃木県日光市) |
竜がはうように川が広がる様子が名の由来。荒涼とした岩肌と優しい新緑の取り合わせが美しい。「散策コースの途中にある橋から絶景を一望できる」(深見賢一さん)
(1)5上~下(2)0288・77・2052(鬼怒川・川治温泉観光協会)(3)野岩鉄道龍王峡駅からすぐ
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9 | 170ポイント 御岳渓流(東京都青梅市) |
東京都心から約1時間半、エメラルドグリーンの清流とまばゆい新緑に出合える。川遊びもでき、釣りやカヌーを楽しむ人も多い。「近くの酒造会社を見学するのもおもしろい」(竹田さん)
(1)5上~下(2)0428・24・2481(市観光協会)(3)JR青梅線御嶽駅からすぐ
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10 | 150ポイント 赤目四十八滝渓谷(三重県名張市) |
約4キロにわたって点在する階段状の滝と周囲を覆う新緑がまぶしい。滝の種類も豊富。「紅葉シーズンに比べ、新緑時の渓流沿いは静か。森林浴をすれば貸し切り気分だ」(富本さん)
(1)5中~6上(2)0595・63・3004(赤目観光協会)(3)近鉄大阪線赤目口駅からバスで10分
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新緑の主役はブナやカエデなど冬に葉を落とす落葉広葉樹。春になると、葉が芽吹き、鮮やかな薄緑色に森の色が変わる。秋には色づく木も多く、ランキングには紅葉の名所としても有名な場所が並んだ。
新緑の名所は総じて落葉広葉樹が多く見られるが、日本列島は南北に長いため、地域によって、その割合や樹種に違いがある。森林インストラクターの石井誠治さんによると、標高によっても差があるが、北海道や本州の中部地方までは落葉広葉樹が中心で、近畿以南の温暖な地域では常緑広葉樹が目立ってくる。
10位中で最も北にある1位の奥入瀬渓流は、ほとんどが落葉広葉樹で、森全体が若葉の黄緑色に染まる。一方、最も南にある2位の菊池渓谷は、落葉と常緑の広葉樹が混生し、針葉樹もある。常緑樹は毎年すべての葉が落ちるわけではないので、濃い緑色の葉が多く、そうした名所では様々な緑色が混じり合う。
ただ、常緑樹も春には新芽が出る。時期は落葉樹より1カ月程度遅い。葉を残して冬を越すので「急いで若葉を伸ばす必要がない」(石井さん)ためだ。また、同じ常緑樹でも樹種によって葉が生え替わる間隔が1年から数年と異なり、一つの木でもある枝だけ新緑になることもある。樹種や緑の濃さの違いを意識しながら歩くのもおもしろい。
日本は世界でも森が多い。林野庁の林業白書によると、国土に占める森林面積の割合(森林率)は日本は約68%で、先進国の中ではフィンランドに次ぐ。公園の木立など新緑が美しい場所は身近にもあるはずだ。
紅葉や花と違い枯れるわけではないので、見ごろを過ぎても楽しめる。夏、避暑に行くのもおすすめだ。
冷え込み・足場の悪さに注意して
歩きやすい渓谷を選んだが、気を抜かないようにしよう。川沿いでは朝晩を中心に冷え込みやすく、標高の高い場所は初夏でも雪が残ることも。雑誌「新ハイキング」の竹田賢一編集長は「薄手のウインドブレーカーやフリースを持って行くこと」をすすめる。持ち運びやすく、小雨にも対応できる。
足元はトレッキングシューズが望ましい。遊歩道が整備されていても、足場が悪い場所もある。ぬれた岩場などは滑ることもある。スニーカーでもよいが「底が薄いため、疲れやすい」。
転倒した際のことも考え、荷物などは手に持たず、リュックなどにまとめた方が無難。天候によって川の水かさが増えることもあるので、最新の気象情報などの確認も欠かせない。
表の見方 数字は選者の評価を点数化。(1)新緑の見ごろの時期(数字は月、上中下は上旬、中旬、下旬の略)(2)問い合わせ先の電話番号(3)最寄り駅などからの行き方
調査の方法 遊歩道が整備され、川の流れと一緒に新緑を楽しむことができる渓谷が対象。そのなかで、新緑が美しいおすすめの場所を、家族連れでも行きやすいかどうかなどを考慮しながら、専門家に挙げてもらった。選者は次の通り(敬称略、五十音順)。
稲葉教之(日本旅行グループ事業部)▽小松毅史(風景写真家)▽竹田賢一(雑誌「新ハイキング」編集長)▽寺沢秀治(風景写真家)▽富田文雄(同)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽深見賢一(日本ウオーキング協会センター長)▽村上真一(実業之日本社国内版ブルーガイド出版部)▽山梨勝弘(風景写真家)▽山本豊(近畿日本ツーリスト国内旅行部)