故郷・久留米をロックで元気に 石橋凌、鮎川誠ら集結
音楽の盛んな町として知られる福岡県久留米市。
4月末にオープンしたばかりの「久留米シティプラザ ザ・グランドホール」で6月19日、シーナ&ロケッツの鮎川誠、元ARBの石橋凌ら久留米出身のロッカーたちが集い、イベントライブ「KOOL MEGA LIVE」を開催した。
久留米市は、タイヤのブリヂストンや靴のムーンスターなどゴム産業で栄え、福岡市、北九州市に次ぐ福岡県内第3位の都市規模を誇る。音楽だけでなく、とんこつラーメンの発祥地、さらには青木繁や坂本繁二郎、古賀春江など洋画家を多く輩出したことでも知られるが、他の地方都市同様、近年は人口減少が続き、かつてのにぎわいを失いつつある。
そんな久留米の中心市街地・六ツ門の活性化をめざし、閉店した百貨店跡地に建設されたのが今回の会場だ。
まず最初に登場したのは、元チェッカーズの藤井尚之と久留米を拠点に海外でも活躍するザ・トラベラーズ。
チェッカーズは、藤井フミヤや武内享らが久留米で結成。地元での活動を経てデビューする。尚之とザ・トラベラーズはアマチュア時代からの親交で、ゴムの町・久留米をそのままタイトルにしたアルバム「RUBBER TOWN」を2011年に、2013年にも共同でアルバム「El Camino」を作っている。
そろいのスーツにグリースで固めた髪形からも分かるように、演奏には「1950年代」が漂う。白黒ツートーンのウイングチップシューズはもちろんピカピカだ。
尚之と武田真治、サックス2本のアンサンブルでジャズの風合いを感じさせつつ、しっかりとリズムを強調した演奏は、ロックンロールのルーツと呼べるもの。久留米に、古くからロックが根を下ろしていたことを感じさせる。
2番手に登場したのは石橋凌。元ARBのボーカリストというより、今では「俳優の」と紹介した方がわかりやすいだろう。
ザ・トラベラーズwith藤井尚之から始まり、エンディングに至るまで、この日の会場にはずっと「男臭さ」が漂っていた。
石橋が本格的に俳優に転じたきっかけは、彼を演技の世界に導いた松田優作の死。「優作さんの遺志を引き継ぐ」と本業の音楽活動を封印した。労働者をテーマにするなど、そもそも硬派な世界を多く歌っていたこともあり「男・石橋凌」のイメージを強くした。
そんな石橋も7月には60歳を迎える。ステージに登場した姿には「大物俳優」の貫禄が漂う。しかし歌い始めると、ARBのころそのままの「男の色気」が全身からみなぎる。
聴く者の魂を揺さぶるような太い声質、全身の力をふりしぼるシャウトは、ARB全盛期そのものだ。79年のデビューアルバムに収められていた「喝!」など、初期の作品にも違和感はない。
そしてやはり「靴」が登場する。
「ダディーズ・シューズ」は初期ARBの人気曲のひとつ。盛り上がるゴムの町の市民を前に、やはり黒白のウイングチップを見せつけるように、足をモニタースピーカーに乗せて歌う。
客席を鼓舞し、ともに歌うことを求め、観客をぐいぐい自分の世界に引き込んでいく。2015年発表の「ヨロコビノウタを!」でさえ、長年聞き慣れた歌かと錯覚してしまうほど一緒に歌えてしまう。
カリスマ的なステージは、手のひらを額の前にかざし客席を見渡すおなじみのポーズとともに健在だ。
最後に登場したのは、鮎川誠率いるシーナ&ロケッツ。
鮎川は、1948年生まれの68歳にして、75年にサンハウスのギタリストとしてデビューして以来、1度として演奏活動を途絶えさせたことがない。まさに日本ロック界の重鎮だ。久留米に生まれ、地元・明善高校を経て九州大学へと、78年にシーナ&ロケッツで上京するまで一貫して地元で音楽活動を続けてきた。
MCでも、かつてこの土地にあった百貨店でレコードを買い、音楽に目覚めたというエピソードを披露した。
代表曲のひとつ「レモンティー」や「ビールスカプセル」など、サンハウス時代の作品を今なお演奏し続ける。愛用のギター、69年製の黒いレスポールこそすっかりビンテージの風合いだが、演奏にはサビのひとつもない。
昨年2月、鮎川は、妻でありバンドのボーカリストでもあるシーナさんをがんで失った。しかし、今なおシーナ&ロケッツとして活動を続ける。
「シーナ&ロケッツをやめたらシーナが悲しむ、ステージに立てば、シーナはいつもここにいる」と、鮎川は胸のTシャツにプリントされたシーナさんの顔写真に手を当てた。
その口調は「愛を貫くことは男気」と言わんばかり。これぞ九州男児のロック魂なのだ。
シーナさんとは正反対の低い声で歌う「ユー・メイ・ドリーム」には万感の思いが込められていたように感じた。
ジョイントライブのお約束、最後のセッションは「上を向いて歩こう」。やはり久留米出身の作曲家・中村八大の作品だ。鮎川が、故郷の音楽の大先輩に敬意を表しロック調にアレンジした。
石橋凌のバンドには、めんたいロックの盟友・ルースターズのドラマー・池畑潤二や最盛期のRCサクセションのステージを支えたサックスプレーヤー・梅津和時の姿も見えた。
故郷に元気を取り戻そうというライブに顔をそろえた重鎮たち。最後はロックンロールの名曲「ジョニーBグッド」をロックシティー・久留米にささげた。
(渡辺智哉)
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