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リーダーのマネジメント論

なぜ東大生はワークスアプリに集まるのか ワークスアプリケーションズCEO 牧野正幸氏(上)

2016/8/16

 東京大学の学生が2016年に入社した企業はどこだったのか――。東京大学新聞によると、上位ランキングに大手メーカーや金融機関など有名企業が名を連ねるなか、異彩を放つ中堅IT(情報技術)企業がある。統合基幹業務システム(ERP)ソフトを手掛けるワークスアプリケーションズ(東京・港)だ。名門校として知られるインド工科大学などアジアの優秀な学生も続々入社する。売り手市場が続く日本でなぜ、優秀な学生たちがこの会社を選んだのか。最高経営責任者(CEO)の牧野正幸氏の独自の人材採用・育成論とは。

■東大から23人が入社

 ――東大新聞によると、15年度の東大生の就職先ランキングではワークスアプリケーションズは大学院修了者が13人で13位、学部卒は10人で10位。いずれも前年に比べて大幅に増加しているといいます。東大のみならず、アジアの優秀な人材も集めていますが、ワークスアプリを選ぶ理由はなぜだと考えていますか。

 「自分に自信がある人がきていると思います。私は『最低うちの会社で30歳まで働いてほしい』と話します。10年間は自分を伸ばさなければならない時期です。私はいつも学生に『いい会社選びっていうけど、いい会社なんて選んでも無駄だよ』というのです。一番大事なのは、自分の成長に都合のいい会社を選ぶこと。当社は今の日本では間違いなく成長に都合のいい会社ですよ。成果より成長を評価するから。彼らにとっては都合がいいからきているんじゃないですか。我々にとっても30歳以降が一番おいしいので、できればうちの会社で働き続けてほしい。しかしもし自分のやりたいことが見つかった時、30歳までに基礎力を身につけておけばどこでも働ける」

 「当社は社歴や人数からいうとベンチャーなので、内定をたくさん持つような最優秀な人が入ってくると、みんな諦めないんですよ。どういうことかというと、知名度の高い企業なら、入社した瞬間に『この会社ならブランドがあるから』と(多少想像と違っていても、まあこんなものかと)諦める。ところが、当社に来る人は諦めない。少しでもウソがあると、納得できずにやめてすぐに他に行きます」

■「自分で考えろ」を徹底

ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO

 ――どのようにして新入社員を育成しているのですか。

 「当社では、新卒で入ってきた時から教え続けることは一つだけ。『自分で考えろ』です。前例やルール、マニュアルにとらわれる必要はない。新人研修もすべて自分で考えるということに主眼をおいているので、課題だけ渡して答えも何も教えません。それをひたすら繰り返します」

 「3、4割の人は『これって何? 放置プレイ? 意味がわからないし、そんなのできるわけないじゃん』という反応をします。たとえば、ITの知識がない人に『今まで見たことないようなパソコンもしくはモバイル端末の時計のプログラムの企画を考えてください』という課題を出すとする。普通『まずどうやったらいいのですか』となります。何の材料もないのだから。でもこれでいいのです。嫌ならやめるし、考える人が残ります」

 ――ワークスアプリは独自のインターンシップ(就業体験)制度で人気になりました。合格すれば3年間有効な「入社パス」がもらえるそうですが、なぜインターンを始めたのですか。

 「考える力を見るためでした。もともとは15年以上前、第二新卒の採用のために、6カ月の研修をやっていました。今考えると恐ろしいですが『給与を保証する6カ月の教育期間を受けて不合格だった人はやめていただきます。その条件でOKなら受けてください』というものです。これが非常にうまくいきました」

 「当時、日本が非常にゆらいでいた時でした。山一証券が破綻し、優秀な金融マンが大量に流れ込んできたのです。彼らにエンジニアとしての職をつけるなら、技術者としての教育をすべきだと、通常であれば入社後3年間はかけて教える内容を6カ月に凝縮して教育しました。経験した多くの人から『これを学生時代にやりたかった』という声をもらったのです」

 「しかし、6カ月働いてもらって、できなければクビ、なんてことを新卒の学生にはできない。そこで『考える能力があるか』を見極めることにしぼって約1カ月間学生を受け入れることにしたのが始まりです」

3年有効の入社パスと、100万円高い年俸

 ――ワークスアプリには通常の新卒採用もあります。インターンで採用した学生との違いを教えて下さい。

 「インターンの合格者は選ばれた人です。選考で約8割落として、2割しか残さない。さらにそのうち2~3割しか合格しないので合格率は3%程度です。彼らは卒業後3年間、いつ入社してもいいというパスを持っています。内定パスではなく入社パスなので、いつ使ってもいいのです。ほかの会社で経験積んだあとでも、留学したあとでもいい。うちはそのタイミングにあえば基本的には簡単な面談だけで問題ありません。さらにインターン入社組は、通常組よりも年俸も初めから100万円高くしています」

 「インターンの合格者は、起業率が高い。うちにこないでそのまま起業する人さえいる。一人でゼロから考えることの喜びとその難易度の高さを知ったからでしょう。『クリエイティビティーのある仕事をしたい』という人は多いです。しかし、実際にゼロから毎日考えろ、考えろ、と追いたてられても実際にやってみたら、あり得ないほどしんどくて『苦しい』しかない。みんな、インターンでそのことに気づきます」

 ――インターンにきた人は、ある意味「自分を追い詰める」ことに喜びを感じていくのでしょうか。

 「そうですね。考えることのできる人は『自分はこんな仕事をやりたい』と気づく。できない人は『なにこれマジありえない』ですよ。実際、そういう声は非常に多いです。経験した人の半分くらいは、なんかよくわからない、と思っているのじゃないですか。『クリエイティブって何? 俺はクリエイティブだけど、ワークスのインターンではできなかった。少しはヒントをくれ』と。ヒントがあればそこそこ頭のいい人なら、たかが20日間で与えられる課題なんてできる。ヒントなしでやるから難しいんです」

世界と大きな差が開いた日本

 ――牧野さんは「考える力」の重要性を繰り返し話しています。これは学歴で差がでるものですか。

 「関係ありません。正直にいうと傾向はない。もちろん頭の回転の速さは、学歴によって違います。ただそれも確率のレベルでしかない。東大と偏差値55くらいの大学を比べても半分も変わらないです。10人受けにきて、東大が2人で片方が1人合格というくらいの差です」

 ――ワークスアプリは海外人材も積極的に採用されています。

 「うちは4割近くが海外、インドや中国、シンガポールなどアジア地域から採用しています。各国のトップ中のトップ大学のコンピューターサイエンスの出身者が多い。アジア諸国と日本の学生は、高校まではほとんど変わりません。大変な受験戦争に勝ち抜いてきた人たちです。問題は、大学の4年間、もしくは大学院です。大学時代は、人生で一番伸びる時期です。アジアでは何本も論文を読み、それをまとめあげて自分の考えを発表し議論する、ということを日常的にやらされています。コンピューターサイエンスの分野なら、まだ学んでいない分野を自分で分析、ということをひたすらやらされる」

 「日本の新卒のレベルの低下が一番の問題です。中間層も大切ですが、日本は国を引っ張るトップ5%の学生を育てなければならない。日本と海外、どれくらいの差があるかというと、向こうの下位5%を除くと全員、日本人より優秀です。逆に、日本のトップ5%は海外では下の方です。海外では自分で考える癖を4年から7年続けてきているので、卒業時点で入社年次でいうと4~5年目くらい考える能力があるのです。それほど差をつけられた日本の学生を見ているとかわいそうに感じます」

牧野正幸氏(まきの・まさゆき)
建設会社などを経て1996年にワークスアプリケーションズを設立。中央教育審議会委員も務める。兵庫県出身。53歳

(松本千恵)

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