商店街、恐怖を売ります お化け屋敷で集客
空き店舗、リアルな寂れ
紳士服店、「阿波幻獣屋敷」に変身
JR徳島駅と眉山に挟まれた東新町商店街(徳島市)。ゲーム店や洋服店に囲まれた一角に人だかりがあった。8月30日まで開く「阿波幻獣屋敷」だ。「もうええやんか~」「白眼やし~」。女子高生の一団が絶叫しながらゴールし、入場待ちの客がざわめく。
元は紳士服店という暗い場内を、懐中電灯で照らして進む。鏡張りの壁には殴り書きの血文字。「ハエ男」「鳴門の鬼神」など地元にちなんだ「幻獣」に脅かされながら、隠されたキーワードを発見すると脱出できる。大抵の客は文字を探すどころではなく、幻獣のお情けで解放される。
装飾や衣装はよく見るとほほ笑ましいほどの手作り感。それでも徳島県内の高校生、高橋ほのかさん(16)は「ガチ泣きした。だって、人やし動くし話すもん」。テーマパークのように凝った仕掛けに頼らない「人力」に味がある。
柳ケ瀬商店街が「恐怖の細道」に
柳ケ瀬商店街(岐阜市)のお化け屋敷前にたたずむ女性はコートが血の手形まみれ、マスクの端からぱっくり裂けた口がのぞく。そばを主婦やおじいさんが普通に通り過ぎる光景は何ともシュール。と思いきや女性が奇声を発して駆け出し、周囲から悲鳴が上がる。
同商店街の「恐怖の細道」は、劇場だったビルが舞台。岐阜市が発祥と言われる口裂け女がテーマだ。「時が止まってしまった昭和の柳ケ瀬にご案内します」。血まみれのマネキン、レトロなポスター。怖々歩む客に、背後から口裂け女が迫る。必死に逃げた女子中学生の1人は、脱出するなり転倒。「(口裂け女の)顔見るのも忘れとった」
入場料は共に大人600円と手ごろ。その集客力は侮れない。恐怖の細道は初回だった昨年、1万8000人を動員。今年は遠来客も含め約600人が訪れた日もあり、9月23日までの2カ月で2万人超えを見込む。阿波幻獣屋敷も休日は200人を集める。
商店街お化け屋敷のはしりは山口県宇部市で2011~12年に開かれた「デッド・オア・アライブ」だ。ビルの3階分を利用し、歩行距離1290メートルはギネス記録として話題になった。
東京都杉並区でも、商店街の一角にお化け屋敷「オバケン」が現れた。都市型らしく、騒音を出さないようヘッドホンをつける仕組み。耳元で足音やうめき声が流れ、突然目の前に人形が落ちる仕掛けもある。
お化け屋敷の開業費用は意外に安い。きれいな娯楽施設を作るのは難しいが、暗闇は七難隠す。手弁当の地元企業とボランティアなら数百万円で済む。天井をはう配線や汚れた壁など建物自体が舞台装置となる。
オカルト作家がプロデューサー
「いつ入るの?」「えー怖い。後でしょ……」。柳ケ瀬では縁日のように子供たちが集い「もう10回来た」という小学生も。地元経営者らで作る運営主体「やながもん」の吉村輝昭代表は「10年続けて、子どもを地元への思いを持つ大人に育てたい」と話す。
素人集団がお化け屋敷を形にできる裏には、筋立てや舞台設定を指南するプロデューサーの存在がある。「恐怖の細道」などを手掛けたのはオカルト作家の山口敏太郎さん。「地方の人は『おらが町には何もない』という。でも日本にはどの土地にも伝説がある」
山口さんが手本とするのはUFOなどの噂をしたたかに集客につなげる米国の「化け物観光」だ。日本でも妖怪像が立ち並ぶ「水木しげるロード」の鳥取県境港市は年間200万人超の観光客を集める。
「オバケン」などを監修する特殊メークのプロ、マイケルティー・ヤマグチさんは生活感に注目する。ある商店街では住民から、古びたタンス、枯れ果てた植木、腐った瓶詰の漬物など実物の「恐怖アイテム」が次々集まった。「汚し作業が要らず、下手な業者が作ったセットより怖い」
7月に財政破綻した米デトロイト市では、住民流出で廃虚となった一帯をゾンビのテーマパークにする民間構想があった。実現すれば「マイナスを逆手にとった集客コンテンツ」(ヤマグチさん)の最たるものになっただろう。
後はいかに商店街全体のにぎわいに結びつけるか。お化けにちなむ商品などを出す店は少なく「『とっぴなことを』と遠巻きに見る店主も多い」(ある運営者)。あるお化け屋敷は今夏、わずか3日で休業。1日100人超を迎える難しさを見誤り、バイト不足など運営ミスが噴出した。地域が一体にならなければ、それこそ背筋の寒い結果になる。
(石森ゆう太、阿曽村雄太)
〔日経MJ2013年8月5日付〕
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。