私はどっちに帰るの…単身赴任できますか?
糸の切れたタコって…
「もしあなたが転勤することがあったら、独りで行ってね」。夕食の最中にカミさんから突然、こんな通告を受けたことがある。その瞬間、バラ色の独身生活を謳歌できるという喜びと、やっぱり家族と離れたくないという思いに引き裂かれそうになり、ゴクリとおかずを飲み込んだ。
その後、自分が単身赴任する事態は起きていない。だが周りを見回すと、家族を残して赴任していく同僚はたくさんいる。極論すれば、彼らには2つのタイプがあるように思う。1つは、本当にシングルライフを楽しむ人たち。アジアに赴任したある先輩は、家族からすれば糸の切れたタコ状態と聞く。
もう1つは留守宅が気になり、頻繁に帰ってくるタイプ。取引先の男性は、東京の職場から兵庫県の自宅まで月3回戻っている。深夜バスを使ってよろよろ帰宅すると、子どもを抱えながら働いている奥さんからマシンガンのように嘆き節を聞かされる。それを静かに聞くという。思わず同情してしまうが、平日もメールでつながっていて、離れているから絆が強まっているようにも見える。さて、僕はどっちのタイプになるのか――。
3Dの夫に我が子ぼう然
お互いに仕事が続けたくて、夫が遠方に単身赴任することを選んだ。あれからはや10年。スカイプやテレビ電話のおかげで、あまり帰宅できない夫も子どもの成長をリアルタイムで楽しんできた。子どもも週末の1時間をパパとの会話で過ごし、変わった形ではあるが家族の体をなしている。
ただ、つながっているとはいえ、現実に一緒に過ごさない弊害はある。まだ1歳だった子どもは、久しぶりに帰国し玄関に立った夫を見ると、その場に立ち尽くし固まってしまった。いつも画面から手を振る2次元のパパが現実に3Dでいたからだ。
もっとも今では子どもも悪知恵がつき、都合の悪いことはネットで報告し、夫に怒られ始めると「はいはい、ごめんなさい」とカメラの前から逃げていく術を覚えた。夫がスーツケースを触っていると「パパ、いつ帰るの?」という始末。
「帰るんじゃない、行くの!」という夫はちょっと寂しそう。結婚したころ、夫の上司が「円満のコツは家族一緒にご飯を食べること」という言葉を贈ってくれた。文明の利器が登場してもやっぱり、一緒に過ごす空気感は大切だ。
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