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プロが明かす出世のカラクリ

育児休暇をとるか(どのぐらい長く取得するか) 会社人生を決める7つの選択(6)

平康 慶浩 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント

2016/2/2

育児と出世の期間的関係

共働き世帯はすでに60%に達している。しかし世帯平均所得は減りつつあり、共働きでなければ育児がそもそもできない状況になりつつあることが、厚生労働省の国民生活基礎調査からわかる。

会社の中で給与を増やす方法はすでに年次昇給ではなく昇進による昇給がメインになっている。だから出世しなければ給与は増えないのだけれど、育児と出世との両立は可能なのだろうか。

課長になる平均的な年齢は統計により若干異なるが、おおよそ40歳手前だ。部長になるのは45歳前後。だから出世しようと思えば30代半ばから40代半ばあたりに最も努力しなければいけない。

一方で平均初婚年齢は現在30歳を少し過ぎている。あわせて初産の年齢も後倒しになっており、特に都市部では晩婚化・晩産化が進んでいる。育児はそこからスタートするが、就学前期間だけでなく、小学校や中学校でも親の参加は重要だ。

これらの事実が示すことは、「出世に注力する期間と、育児期間が完全に重複してしまっている」ということだ。そして残念ながら、多くの企業では育児に注力する人は出世から遅れることになる。

出世ロジックが時短者・休職者を排除する理由

企業タイプを問わず、出世の基本的なロジックは、「候補者の選抜→昇進判断」というステップを踏む。

重要なことは選抜基準にある。企業タイプを問わず、まず選抜の際に過去の人事評価の結果を確認する企業が大半だ。もちろん人事評価の結果が良いからといって必ず出世できるわけではないが、評価結果が良ければ少なくとも候補にはあがる。仮に出世にふさわしくない行動をとっていたとしても、それは後段の昇進判断の際に確認される内容だ。

この過去の評価結果という選抜基準がある企業では、休職は出世の放棄と同じ意味になってしまう。その理由が出産だろうが育児だろうが介護だろうが同様だ。なぜそうなるのかといえば、休職取得した期間を人事評価の対象外とする企業が多いからだ。企業によっては人事データ管理のために休業期間も評価結果を残す場合があるが、たいてい最低評価かその少し上の評価しかつけない。5段階であれば1か2の評価をつけるということだ。

この過去の評価結果だが、一般的には単年度で見ない。過去2年、あるいは3年の結果を見る。そこで平均点を出したり、あるいは標準未満の評価結果をとったりしていないかを確認する。

しかし休職した人は評価そのものがないか標準未満の評価しかついていない。だからその影響はその後数年続いてしまうのだ。仮に平均的に30 歳で係長になる会社で、28歳時点で休職したとしよう。30歳の昇進判断のためには27~29歳の期間の評価結果を見る。しかし28歳で休職している場合は評価結果がないか低い。そこで平均的な昇進から漏れるわけだが、彼/彼女が再び昇進候補にあがるのはなんと32歳時点だ。1年の休職が2年の出世の遅れになってしまうということだ。

時短についても同様だ。子どもを迎えに行くためにいつも定時よりも1時間早く退社する人に対してはまず給与をその分だけ減らす。それ自体は納得性があるかもしれないが、さらに評価まで1段階落とすような会社も多い。その結果やはり出世する速度は遅くなってしまうのだ。

育休・時短による昇進の遅れを会社はどう見るか

この出世判断の方法についてあなたは間違っていると思うだろうか。

実は多くの会社の人事部門で、この問題についての議論は何度も繰り返されてきている。優秀な人物がライフイベントを理由として高いポジションで活躍できないことは大きな損失だ、ということをまっとうに議論する会社はとても多い。

しかしロイヤリティ型企業ではたいていこんな意見でつぶされてしまう。

「同じだけ優秀な人材だとすれば、経験が長い方が活躍する可能性が高いでしょう」「年をとってから昇進しても本当に優秀ならどんどん出世しますよ」「そもそも仕事から離れているんだから勘も鈍っているだろうし、リハビリ期間が必要じゃないですか」「休職していた人や短時間勤務の人をその同期と一緒に昇進させたりしたら、休職していなかった連中が納得しませんよ」

環境適応型の会社では女性活用を目的として、候補選抜のための期間を短縮する取り組みも増えている。複数年ではなく単年度の結果だけを見て候補を選ぶような取り組みだ。

自立型の会社で、ポストや職務に応じて昇進判断をする場合には休職がハンデにならない場合もある。とはいえそういう企業の割合はとても少ない。

育児しながらでも出世できるのか

出産・育児のために休職する女性ですらそのような扱いを受けるのだから、男性が育児のために休職したり、あるいは時短の制度を活用したりするとどうなるのかはおのずとわかるだろう。残念ながら会社の昇進についての仕組みがそうなっている以上、人事制度そのものの改革を進めない限り、育児のために休職する人は出世できない。仮に出世できたとしても数年単位で遅れてしまう。そして数年の遅れは、より高いポジションへの昇進可能性を低くしてしまう。

現状の出世ロジックを前提とする限り、どんな事情であったとしても休職期間は短い方がよい。これは仮に多くの会社が自立型になっていたとしてもそうだ。

実は育児休業期間については国によってばらつきが大きい。フランスやドイツでは育児休業を最長3年まで取得できる制度があるが、アメリカやイギリスではおよそ3カ月まで。日本は今、フランスやドイツに近い制度に移行しようとしているわけだ。

ではどちらがキャリア構築のために有効なのかといえば、これは国ではなくビジネスのタイプによるのだ。判断軸は専門性と顧客で見るとわかりやすい。

小売業の店舗接客や、事務、ルートセールスは休職の影響が小さい

たとえば今担当している職務が、不特定多数の顧客を対象としているもので、なおかつ専門性の度合いが小さいとする。その場合には休職によるキャリア中断の影響は最も受けにくい。顧客との関係性を維持する必要が少なく、かつ経験による専門性の向上が重要ではないからだ。ただこのタイプの職務は入れ替えも容易である点に注意しなくてはならない。たとえば小売業や飲食業での店舗接客などが典型的な例だ。しばらく現場を離れていたとしても職務に戻ることは容易だが、すでにその職務を別の人が担当してしまっているかもしれない。

特定少数の顧客を対象としていて、専門性が小さい職務もキャリアの中断に強い。ただし特定少数の顧客とのつながりが重要視される場合には、忘れられない程度の期間で戻らないと、関係性をイチから作り直すことになるのでパフォーマンスは下がる。ここにあてはまるのはたとえばルーチンの事務作業や、ルートセールスなどの定常的な職務が多い。

専門性が高い仕事ほど、キャリア中断の影響が大きくなるが……

顧客が不特定多数であったとしても、求められる専門性が高くなるとキャリアの中断の影響は大きくなる。専門性は学習と経験によって成長するが、その経験の部分が失われるからだ。マーケティングや商品開発などの職務がここにあてはまるだろう。また特定少数の顧客を相手にしていたとしても、その顧客が常に入れ替わるようなプロジェクト型組織もこのタイプに属することになる。コンサルタントがその一例だ。

だからこのタイプの職務の場合、せめて学習は怠らないようにしなくてはならない。また可能であれば定期的に環境変化についての情報を共有してもらうことで、求められる専門性にどのような影響が出ているのかを把握しておくべきだ。

キャリアの中断が最も強く影響するのは、特定少数の顧客に対して高いレベルの専門性を発揮しなければいけない職務だ。関係性の維持が日々の必須事項であり、さらに顧客とのビジネスの中で培う経験で専門性を高めるスパイラルが生まれているような場合、そこから外れることはキャリアで大幅な遅れをもたらすことになる。BtoBビジネスにおける営業の多くはここに含まれることになるだろう。

仮にこのような職務についている場合にはどうすればいいのか。成功している事例から見ると、「顧客を変える」ことが有効だ。具体的には復職とともに同じ専門性を求められる別の部署への異動をすることだ。このようにした場合、少なくともこれから生み出す成果においては休職期間のデメリットが消えて、単なる異動のデメリットだけが強調される。

育児しながら順調に昇進した人の成功パターンとは?

厳しい環境ではあるが、そのような状況下で少数派ながらも、育児をしながら出世している人も増えてきている。個別事例になるが、共通する要素はある。休職する期間をなるべく短くする、生み出す成果の量とレベルを変えないようにする、といったことだ。

以下の成功例を、育児と出世との両立を考えるきっかけにしてほしい。

【集中分担型】

一番多いのが夫婦でそれぞれ分担しながら育児を進めるタイプだ。前提としてフレックスタイムや裁量労働制のように、自分である程度勤務時間を融通できる人事制度が必要になる。

ある夫婦の場合、子どもの朝の面倒は夫が見て妻は早くから出勤する。夕方は逆に妻が早く帰って子どもの世話をして夫は遅く帰ってくる、というような分担をしている。ちなみにこの例では夫は同期の中でもかなり早く昇進しているし、妻の方は専門職として活躍している。

また別の夫婦では曜日による分担制を敷いている。夫・妻の双方とも週に何日かは自宅勤務が可能なので、その仕組みを用いて育児を分担しているのだ。

【時期ずらし型】

少々極端な例になるが、計画的出産で出世と育児の時期をずらした例がある。つまり妻が管理職に昇進してから出産するような計画をたて、その通り実行したのだ。高齢出産にはなったが、お子さんは健やかに育っているし、妻も管理職として今も活躍している。今は課長だが、数年すれば部長になる芽も見えている社内の出世頭だ。

【挽回型】

自分たちの優秀さに自信を持っているある夫婦は、出産後に妻が育児休業をとった。完全に育児に専念し、夫も可能な限り育児を支援した。ただしその期間を半年に短縮したのだ。

現在多くの会社では育児休業期間を長期化しようとする取り組みが増えているが、ちょうどその逆の行動をとったわけだ。またその前に妊娠がわかった時点で、夫婦ともに時短をとらなくてすむような準備を済ませていた。具体的にはそれぞれの会社に短時間で通える場所への転居、その近辺での保育施設の確保、週に一日のベビーシッターの依頼などだ。

1年未満の育児休業であれば評価への影響を低くすることができる。そうしてこの夫婦は休業期間をデメリットにしないような活躍を続けている。

要約
休職期間があると出世が遅れてしまう会社が大半。それは人事制度の仕組み的な問題のため
職務に求められる専門性と顧客のタイプによって、休職に対する影響度合いは異なる。自分が行っている職務の特徴を見極めるとよい
夫婦共働きで育児しながら出世している例は少ないが存在する

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に3万部超のヒットになった『出世する人は人事評価を気にしない』のほか、『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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[日経Bizアカデミー2016年2月2日付]

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