NIKKEIプラス1

2分ほどすると「パチン」と豆が爆(は)ぜる音がする。豆の細胞が壊れた音だ。これを「1爆ぜ」という。にわかにパチパチという音が高まり、緑色だった豆は茶色味を増す。やがて1爆ぜの音が小さくなったかと思うと、まもなく今度は「ピチピチ、チリチリ」と細かい音がしはじめる。これが「2爆ぜ」だ。

今回は2爆ぜ開始から20秒余り後、前田さんの合図で手網を火から外した。うちわで上から下からあおぎ、豆を冷ます。濃い茶色に焼けた豆の表面にうっすら油が浮いている。焦げた豆は取り除く。

焙煎にかかった時間は6分弱。思ったよりも短い。豆の量や腕前でこの時間は変わる。スチール缶を使わないと10分以上かかる場合もある。「炭火なら高温で安定しているので、5分ぐらいで焼き上がります」(前田さん)

手軽とはいえ、やはり手網は焼き具合や時間にブレが生じやすい。「一度、ブレの小さい焙煎機を体験して、豆の色の変化など正確な焼き具合を確認してから、手網にトライしたほうがいい」(前田さん)。まずは正しい「ゴール」を知っておくこと、というわけだ。珈琲やでは1キログラムまで豆を焼けるオリジナルの小型焙煎機を使う。200グラムの豆が10分あまりで焼き上がる。

前田さんの指導よろしく、初めての手網焙煎はほどよく焼き上がった。ほのかな酸味と苦味がマイルドに調和した味わい。とりあえずは及第点か。翌日、記者の手首は少しだけ痛くなった。

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焙煎した豆 どう保存?

焙煎機から豆を抜き取って焙煎具合を確認する

焙煎体験ができる店やワークショップは徐々に増えており、生豆は自家焙煎店や通販で購入できる。珈琲やの「クレオパトラ」は320グラムが1350円。取り扱う約200種類の多くが千数百円台だ。他社の通販には割安な豆もあるが、購入単位が500グラムや1キログラムの場合もあるので確認しよう。

焙煎した豆は4~7日たつと風味が最も強くなるといわれる。だが前田さんは「焙煎した日から味わいが徐々に変わっていくのを楽しむのもいい」と話す。1カ月以内に飲みきるなら、豆はキャニスターなどに密閉して日陰で保管する。より長く保管するなら冷凍しておくといい。一方、生豆は直射日光と湿気を避け、風通しの良い場所に置けば数年間保存できる。

(名出晃)

[NIKKEIプラス1 2021年8月14日付]

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