学校教育を変えれば児童は伸びる 前提は「みな違う」『教育は変えられる』

公教育のあり方が激変している。これからの教育が目指す方向性について教えてくれるのが本書『教育は変えられる』だ。著者の山口裕也氏は、15年にわたり杉並区教育委員会のスタッフとして働いてきた人物。その中で、これまでの学校教育に限界を感じ、根本的に構造を転換させる必要性を考えてきた。具体的には、同じ課題を同じペースで、同じ方法で学ぶ「一斉・一律」「みな同じ」のやり方から、「みな違う」ことを前提とした学びへの転換である。

本書は2019年に本格的に始まった杉並区の「学びの構造転換」の取り組みを元にしながら、それぞれの自治体や関係者が、教育をより良いものに変えていく考え方と具体策を提案するもの。学びと成長、人材と組織、施設の設計、行政財といった全方位的な切り口で論じている。

学習計画を子どもに委ねる

「みな違う」を前提とすると、授業はどのようになるのだろうか。こんな事例が紹介されている。

立松和平作「海の命」を題材にした国語科の授業。受けるのは小学校六年生だ。主人公の太一が、父の命を「クエ」に奪われ、あだを討つために与吉じいさに弟子入りするというストーリーで、典型的な授業では「人物の生き方」について話し合う。だが、なぜ生き方でなければならないのか。もっと多様な着眼や解釈があっていいはずで、そもそも物語を「つまらない」と思う子どももいるのでは、と著者は指摘する。

そこで、「自分で問いや課題を立てて読もう」という課題にし、学習計画も本人に委ねる方式が提案される。教師の役割は考えの異なる人との交流を促すなど、探求方法について示唆を与えることだ。「つまらない」との感想を持った子どもには、なぜつまらないのかを問い、その理由が「内容」なのか「書かれ方」なのかを分けて考えるよう促す。まず子どもに学びたいことを選ばせ、大人は「後追い」するのが基本なのだ。

ここまで個別化すると「収拾がつかなくなるのでは」と現場が不安になったことは想像に難くない。だがフタを開ければ、子どもは「楽しい」「自然と誰かと話したくなる」、そして教員らも「学ぶべき核心にたどり着くのが早い」と手応えを感じたそうだ。

地域一体で学びを支える

こうした転換は、現行の制度の延長で可能だ。みな違うという人間観にのっとって学習が設計されれば、子どもの深い学びが促され、自己効力感も高まってゆく。そして何より、「違い」がいじめや落ちこぼれといった問題に現れるのではなく、多様性や包摂性を育む肥やしになると著者は説く。

強調されるのは、教科区分、学年ごとの学習内容など法が定める「仕組み」とともに、子どもに関わる人が無自覚で続けてきた「慣習・慣行」を変えていくことの大切さだ。つまり「違いを認め生かし合う」教育は、保護者や社会が引き受けるべきテーマでもある。子どもの可能性を信じる多くの人に、手に取って頂きたい一冊だ。

今回の評者=安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

教育は変えられる (講談社現代新書)

著者 : 山口 裕也
出版 : 講談社
価格 : 1,320 円(税込み)

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