日韓の歴史的展開が舞台に

著者はロッテを、戦後日本で創業された企業の中で、もっともダイナミックな事業展開を遂げた企業の一つとみます。「本田技研工業(ホンダ)の本田宗一郎・藤澤武夫、東京通信工業(現ソニー)の井深大・盛田昭夫、日清食品・安藤百福などと並んで、戦後の日本を作り出した人物の一人が本書で取り上げた重光武雄である」。日本では「お口の恋人」という確固たるブランドイメージを確立し、韓国では5大財閥の一つ、ロッテグループを育て上げました。著者は、経営者としての重光を次のように評価して、まとめとしています。

日韓両国におけるロッテの成功は、重光自身による強烈な創業者精神によって生み出された。日韓間を往復しつつ、リスクを取った積極的な経営、迅速な意思決定を骨子とするオーナー経営を貫いた。事前の調査研究やデータを重視する一方、感性を大切にし、夢を追求した。借り入れに依存した企業拡張やM&Aといった手法よりも、新規事業の創造に楽しみを見いだす企業家であった。
ロッテ・重光武雄を評価するには、以上のような特徴を総合的な視点から考察しなければならない。日本だけ、また韓国だけを議論しても不十分であり、日韓双方における企業家としての成長の軌跡は、戦後日韓関係の歴史的展開という舞台があってはじめて実現できた。
(エピローグ ― 重光武雄時代から重光昭夫時代へ 236~237ページ)

◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・堀口勝匡

企業家として大きな成功を遂げた重光武雄ですが、意外にもインタビュー取材などの記録はあまり多く残されていません。一方で、新規事業に取り組む際には新聞広告に自らのメッセージを載せ、事業の目的や商品の品質を丁寧に説明するなど、消費者と真摯に向き合いました。重光の経営には、社会や人々を豊かにしたいという意志が随所に見られます。そのような姿勢から、岸信介や朴正熙といった日韓政財界のトップから厚く信頼され、プロ野球やホテルといった多角化の後押しを受けました。

近年、イノベーションというとITやデジタルといった技術が注目されがちですが、人々の生活を豊かにするという企業活動の原点は、どの時代も変わらないように思います。起業や新規事業への挑戦を考える方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

ロッテ創業者 重光武雄の経営 国境を越えたイノベーター

著者 : 柳町 功
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 2,200 円(税込み)

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