世界の金持ちが選ぶニセコ 選択と集中が魅力を高める『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』

コロナ禍で観光客が激減し、全国の観光地が深刻な痛手を被る中、ホテル建設、公共事業の投資などが継続する元気な地域がある。

北海道・ニセコ。パウダースノーで知られ、世界中から超富裕層が訪れるスキーリゾートだ。最高級ホテルのパークハイアットやリッツ・カールトンが開業し、アマンも建設中で、いわば「外国人による外国人のための楽園」という。地価上昇率は、直近6年連続日本一だ。

ニセコ成功の背景を、開発の歴史、進出企業の投資方針、世界の経済情勢など、多方面から解説するのが、本書『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』だ。著者の高橋克英氏は、シティバンクなどで富裕層向け資産運用アドバイザーを務めた後、金融コンサルティング会社を設立して代表を務める。ニセコには、20年近く通っているという。

「消費」より「投資」に着目

なぜコロナ禍にも、ニセコは活気を失わないのか。理由の一つは、観光による一時的な「消費」より、海外富裕層による長期思考の「投資」先としておカネが集まることだ。政治的に安定した日本の円建て不動産、なかでもニセコ銘柄は、アジア系富裕層にとってなじみのある安心銘柄で、リターンもいい。

彼らの投資対象が、ホテルコンドミニアムだ。分譲マンションのように販売され、海外富裕層はこの部屋を億円単位で購入。管理会社経由で旅行者に貸す。スキーシーズンには1泊20万円という高額の料金設定も珍しくなく、多ければその4割程度を所有者が得る仕組みだ。もちろん、所有者自身も滞在可能。いまなお建設中や建設予定のものも多く、コロナ禍下でも売れているらしい。

さらに著者は、ニセコの強さを、「選択と集中」にも見いだす。一般的な地方創生策は、大衆向けのゆるキャラやB級グルメから富裕層向けの高級温泉旅館まで、「幕の内弁当」型の全方位戦略が多い。一方、ニセコに進出している外資系企業は、パウダースノーをキラーコンテンツと定め、ターゲットを「インバウンド」「富裕層」「スキー」に絞り込む。

全国一律の成長は無理

庶民が訪れにくいニセコの戦略に対して、反論や反発があるのは、著者も承知の上だ。また、雪質や景観に恵まれたニセコを、特殊なケースとして度外視する向きもあるだろう。しかし、本当にそれでいいだろうか。

多くの自治体が取り組む移住者の募集、ワーケーション需要の取り込みといった施策は、耳当たりが良い。しかし著者は、社会インフラの整備を考えれば「すべての都道府県市町村が一律に自立し成長していくのは無理」と言い切り、こうした施策について「むなしい施策やキャンペーンが横行している」と、手厳しい。

現状のままでは、いずれ全国の「消滅可能性都市」が共倒れしかねないのが現実だろう。本書は、ニセコという極端な例を通じて、きれいごとの地方創生論に一石を投じている。地方の未来を真剣に考える人にこそ、一読の価値ある一冊だ。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

なぜニセコだけが世界リゾートになったのか (講談社+α新書)

著者 : 高橋 克英
出版 : 講談社
価格 : 990 円(税込み)

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