企業業績のV字回復は期待薄 大型の経営破綻は回避

新型コロナウイルスの影響で閑散とする羽田空港第3ターミナルの国際線出発ロビー
新型コロナウイルスの流行で、企業の業績が悪化しているというニュースをよく見るわね。仕事がなくなったり、給料が下がったりしないか心配だわ。先行きはどうなりそうなのかしら――。企業の業績の現状と先行きの見通しについて、森川裕子さんと松本梨奈さんに橋本隆祐編集委員が解説した。
――新型コロナの感染拡大で、企業の決算にはどんな影響が出ていますか。
今年4~6月の決算は厳しい結果でした。8月14日時点の集計によると、最終的なもうけを示す純利益は、3月末までの1年間を決算期とする上場企業全体で昨年の同じ時期に比べ57%減りました。
大きく分けると2つの経路で企業はマイナスの影響を受けています。1つは外出自粛や移動制限に伴う消費の落ち込みです。鉄道・バス、空運などは赤字に転落し、売上高も半減~7割減になりました。新幹線の利用者数が一時は9割減になるなど、鉄道各社はかつてない苦境にあります。人の移動が減ると消費活動も落ち込むため、利益の減少幅は小売業で6割、サービス業も4割に達しています。
もう1つは海外の景気減速、生産停滞に伴う輸出への悪影響です。自動車は赤字に転落し、損益の悪化額は全業種で最大になりました。幅広い産業で材料として使われる鉄鋼や非鉄金属も赤字に転落。製造業は全体として非製造業よりも厳しい結果です。
――逆に業績を伸ばしている業種はありますか。
4~6月は食品、医薬品、電気機器、証券、保険、陸運、倉庫、通信の8業種で利益が増えました。食品や医薬品は生活になくてはならない商品です。巣ごもりで宅配需要が増え、在宅勤務も広がるなかで、物流などの陸運業や通信も利益を伸ばしています。
半導体製造装置の東京エレクトロンが4~6月としては過去最高の利益を上げたのも目を引きました。在宅勤務の増加を追い風に、データセンターのサーバー向けの需要が伸びています。巣ごもり需要でゲームが好調だったソニーも大幅増益でした。
――コロナの影響は長引きそうですか。
4~6月期で業績はいったん底打ちしたとの見方が多いようです。現時点で3割強の企業が業績の見通しを出していませんが、予想を公表している企業に市場関係者の予想を加えた日本経済新聞の集計では、上場企業の純利益は2021年3月までの通年で約20%減る見通しで減益幅は4~6月よりは縮小します。
しかしV字回復は難しそうです。感染症が完全に収束するには時間がかかるとみられ、しばらく収益の足かせになる可能性があります。ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するため、小売業やサービス業は余分なコストを強いられます。製造業も海外のサプライチェーン(供給網)の見直しを迫られ、生産性の低下が懸念されます。