組織の浮沈を決める課長の力 身につけるべき哲学とは『課長の哲学』

近ごろは課長になりたくない、と思う人が多いと聞く。例えば私の友人はつい先日課長になったが、ちっともうれしそうではない。業務と責任が増えるが、役職手当は見合わないと嘆く。中でも気が重くなるのが「部下の育成」なのだそうだ。

新卒、中途を問わずに多様な人材を相手に、仕事を教えていかなければならない。また最近は新型コロナウィルスの影響を受け、コミュニケーションの仕方も変化している。このような状況下での部下の指導に、やりにくさやプレッシャーを感じている人は少なくないだろう。

本書『課長の哲学』も、現代の課長をめぐる困難な状況に共感している。その上で、直接的に部下を指導する立場にある課長こそが、日本企業の趨勢(すうせい)の鍵を握っていると強調する。どんな人材であってもやる気や能力を引き出し、企業人として成長させる役割を課長が担っているからだ。

本書は課長、つまり「ミドルもしくはベテラン社員」として後進を育てる立場になったビジネスパーソンが持っておくべき「49の問い」をまとめている。例えば「SDGsの達成でますます金持ちになるのは誰なのか?」「IT化とAI化、あなたの仕事はそのままか?」「先輩として、新人に最低限伝えるべきこととは何か?」などその範囲は多岐にわたる。著者は、経営コンサルタントで、キャリアパスについての著書も多い新井健一氏。

「自分の正論」を疑う

大前提として、課長は多様な価値観をもつ人材と渡り合わなくてはならない。そのため、ベテランであるほど確立される「職業的信念(コア・ビリーフ)」に気を付けよ、と著者は指摘する。例えば「正々堂々」「こびへつらわない」といった行動原理が、場合によってはパワハラ問題に発展する可能性がある。また、業務のツールも変わりつつある。議事録を作成するのに部下がスマホを打ち始めても、「議事録は手書きに決まっている」と自分の当たり前を押し付けてはいけないのだ。部下を指導する立場になったら、まずは自分の正論は本当に正しいのか、セルフチェックする必要があるだろう。

何でも部下の価値観やスタイルに合わせるわけではない。著者は、課長は部下に企業人としての「道徳」を教えよ、と説く。欧米では長いインターン期間を経て、新人がある程度の基本能力やモラルを備えている場合が多いが、日本企業は違う。新人は入社してイチから企業人としての道徳心、つまり「自己責任」や「義務」について学んでいく。組織も課長もこの道徳教育への意識が低いがために、バカッター(Twitterを利用した反社会的行為)などが生まれてしまうのだという。

つまり、翻って課長自身が「企業人としての道徳、生き方」について考えを深めておかなければならないということだ。本書が「哲学」と冠している理由もここにある。社会の潮流を見つめながら、企業人としての本質的な姿勢について考え続けることが、課長の役目の1つのようだ。

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

課長の哲学

著者 : 新井 健一
出版 : クロスメディア・パブリッシング
価格 : 1,518円 (税込み)

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