農産品の知財保護、なぜ混乱した? 広がった「誤解」

――なぜ法改正に反対論が出たのですか。

農家が作物から種を取り、翌年の栽培に使う「自家増殖」に制限をかける規定が盛り込まれていたからです。対象品種で種取りをしようとすれば、農家は品種を開発した企業や機関に許諾料を払うことが必要になります。それが農家の経営を圧迫すると誤解されてしまったのです。

結論から言えば、こうした心配は杞憂(きゆう)と言うべきです。制限がかかるのは、種苗メーカーや研究機関などが農水省に登録する品種です。昔からある品種などは「一般品種」と呼ばれ、制限の対象外で、流通している品種の大半を占めます。

もともと一部の人から、自家増殖の制限に反対する声は出ていました。ただ著名人がツイッターに懸念する内容を投稿し、一般の人も知るようになったことで流れが変わりました。SNSで広がった意見は、法改正が農業を危うくすると心配する内容のものが多かったからです。

現実には、野菜農家をはじめとして実際に自家増殖をしている人は一部で、多くは今も種を買っています。そのほうが効率的だからで、種代が経営を圧迫してもいません。彼らが必要としているのは、食味や栽培面でより優れた品種の開発です。

――知財保護はこれで進まなくなってしまうのですか。

種苗法改正案は廃案にはならず、継続審議になることが決まりました。秋に臨時国会が開かれればそこで議論される可能性があります。農家の間から改正が見送られたことを問題視する声も多く出ており、次はもう少し冷静な議論になると思います。

知財をきちんと守り、種苗メーカーや研究機関が安心して品種改良に取り組める環境を整える。それが日本の農業の競争力の強化につながるのではないでしょうか。

ちょっとウンチク

環境変化に強い品種 重要に

いま、農家が頭を悩ましているのは栽培環境の変化だ。気候変動で気温が上がったり、これまでなかった病害虫がはやったり、大型台風が毎年襲ったりして営農を脅かしている。栽培技術を高めるとともに、環境変化に耐性のある品種を使う重要性が増している。

改正種苗法が成立しても、一般品種の自家増殖は自由。しかし多くの農家は、高温や病気に強い新品種を必要としている。種を買うコストよりも、栽培で失敗することのほうがずっと深刻に経営を圧迫するからだ。環境制御や栽培技術の向上と並び、品種改良の重要性はますます高まっている。(編集委員 吉田忠則)

■今回のニッキィ
吉原 典子さん 薬膳講師。趣味は書道。新型コロナの緊急事態宣言が解除され、真っ先に博物館に書の展示を見に行った。「今後も好きな展示を見に行ける日々が続けばいいな」
畑 有美さん 小学校教諭。図書館司書の資格を取るため、4月から通信制大学で勉強を始めた。「図書のことなら何でも私に聞いて、と言えるような先生になりたい」と意気込んでいる。

[日本経済新聞夕刊 2020年7月13日付]

「ニッキィの大疑問」は原則月曜掲載です。


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