プロンプター頼みの会見 にじむ「言わされてる」感

テレワークがあぶり出す、役割に寄りかかった物言い

検察庁法改正案に関しては、芸能人のツイートが議論を呼んだ。「芸能人が何を言う」といった批判は的外れもいいところだが、一般の匿名批判者のなかには「こういう批判を言っておけば、意識の高い識者っぽくみえそう」「とりあえずかみついて存在感を示さなきゃ」などの計算から、ポジション(立ち位置)を選んでいるような態度も透けてみえる。自ら進んで「役割」を引き受ける態度とも映る。

役割語的な議論のまずい点は、本音が隠されてしまい、表面上の「ポジション取り合戦」に陥りやすいところだ。上っ面の応酬がヒートアップして、揚げ足取りやあら探しが増え、論調がとげとげしくなりやすい。正義感を振りかざす、不寛容な振る舞いも横行しがちだ。

企業内での会議でも、しばしば役割語的なやりとりが起きる。議題と正面から向き合うのではなく、「ここは担当部長として一言、発しておかないと」といった役割意識に駆られて、部長らしい意見を述べてしまうことがあるだろう。プロジェクトそのものの意義を検討する会議に、役割意識に基づく発言が混じり込むと、議論の方向性がねじ曲がりかねない。「とにかくいったん冷や水を浴びせるのは、役職者の威厳を保つ」と思い込んでいる上席者がいると、せっかくの提案がつぶされてしまうことも起こり得る。

もっとまずいと思われるのは、役割語に身をゆだねてしまうと、自分の頭で考えるとか、フラットに発想するという思考が難しくなる点かもしれない。プロンプターやカンペを読むような行為ともいえそうだが、原稿の読み上げと違って、本人には「借り物」の意識は薄い。立場にふさわしい言葉を選んでいるだけだと、発語者当人は思い込んでいるからだ。

だが、「対面式会議」というリアル空間での儀式が減り、リモート環境下での会議が増えてくると、発言は絶対値で評価されやすくなる。コロナ禍が呼び込んだテレワークとテレビ会議は、発言の中身がこれまで以上に重視されるきっかけになった。反対に、役割意識に基づく発言は底浅さや形式主義が目立ちがちだ。さらに、画面の平等な分割は、肩書の価値をぼかし、参加者の立場をフラット化する。

「読み上げ係」のようなアナウンサーがAIに仕事を奪われるリスクが現実味を帯びるのは、別の業界・職種でも、他人の不幸とばかりはいえないはずだ。自分の頭で考え、自分らしい言葉を紡ぎ出そうとしない人は、どんな立場であっても、価値が目減りするおそれがある。ちょっと目新しいマーケティング用語を取り入れて、トレンドの目利きを印象づけるような立ち回りも難しくなりそうだ。中身が借り物だからだ。

プロンプターはよどみなく読み上げるというメリットに加え、発言者が原稿に目を落とさず、視線を上げて話しやすいという、ビジュアル面の利点が大きい。政治家の場合、机上の原稿を読むときの見え具合は、小物感が出やすく、リーダーシップを欠く。プロンプターは常に顔が前を向く見栄えになる点で、堂々としたイメージを出したがる政治家に好まれる。

だが、プロンプターは「声の力」を奪う。人を動かしたり巻き込んだりするうえで、このデメリットは無視できない。原稿を棒読みするリーダーには、「別の支配者・権力者が陰に存在する」という印象がつきまとう。ビジネスの世界でプロンプターを使う機会はあまりなさそうだが、他人の考えを押し付けられるケースは珍しくない。見えないプロンプターに囲まれているような状況ともいえる。

たかが道具ではある。しかし、使い方を誤ると、見た目重視に偏り、言葉の力を損ねかねない。新たなビジネスツールに昇格したテレビ会議やチャットツールは、ぜひともプロンプターやカンペとは異なる、言葉の力を強める使い方が広まってほしいものだ。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2020年6月11日の予定です。


梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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