しゃべりのプロが使う「裏技」

だが、いいところばかりとは限らない。テレビ会議では雑談や冗談、合いの手などがそぎ落とされる傾向にあるせいもあって、やりとりが単調になりがちだ。冷静な口ぶり、論理的な趣旨などは、洗練された雰囲気を醸し出す半面、ややダイナミズムを欠くところがある。互いの発言機会を尊重し、無理に割り込んだり、発言をさえぎったりしない穏やかな態度も、平たんな議事進行につながりやすい。つまり、ざっくりいえば、お行儀がよくなるわけだ。

ベテランのくせ者が出番を減らすと、会議進行はスムーズさを増すだろう。短時間で結論を得ようとする意識と、きれいに議事を進める態度との相乗効果が働いて、論理的でスマートな主張が勢いを得たり、予定調和的な落としどころに着地したりするケースにつながる可能性がありそうだ。

存在感をダウンさせそうなベテランのくせ者や寝業師たちは、長年の経験に基づく知見をもたらしたり、きれいごとでは済まない社内の意思決定システムをにおわせたりして、会議に深みをもたらしてきた人たちでもある。生産性を期待して、こういう「うるさがた」を遠ざけてしまうと、テレビ会議は多様性を弱めてしまいかねない。テレビ会議の利便性や公平感は保ちつつも、こうした知見を取り込むしくみも、今後のテレビ会議には求められるかもしれない。

テレビ会議がもっと普及していけば、やがて様々なノウハウが積み上がって、リアル会議に見劣りしない進め方や発言テクニックが練り上げられていくはずだ。でも、今はまだそこまで至っていないので、リアル会議で培われてきたスキルを、部分的に生かすのも、テレビ会議に血を通わせるうえで役に立つだろう。

平たんに進みやすいテレビ会議に「抑揚」をつけるには、一種の「破綻」を仕掛けるテクニックが使える。具体的には「つっかえる」「言いよどむ」など、あえてスムーズではないしゃべりを織り込むと、フラットすぎるやりとりを、ほどよく波打たせやすくなる。

テレビ番組やお笑い業界から広まったとみえる「噛(か)む」という表現は、うまく口が回らず、言い間違ってしまうことを指す。一般的には「避けるべきミステーク」と理解されているが、実はしゃべりのプロフェッショナルは技巧として使う。トークに転調をもたらし、話の主導権を握るうえで、こなれない物言いは武器になり得る。

バランスや落ち着きを崩すと、意外感が生まれ、発言者の言葉に重みが加わる。つっかえや言いよどみのほかに、ボキャブラリーの面でもありきたりではない言葉選びは、適度なサプライズをもたらす。

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